Library and Information Science

Library and Information Science ISSN: 2435-8495
三田図書館・情報学会 Mita Society for Library and Information Science
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Library Science 3: 19-39 (1965)
doi:10.46895/ls.3.19

原著論文Original Article

米国の医学・大学図書館における電子計算機の利用状況1964年現在Computers in medical and university libraries: A review of the situation in U.S. in 1964

発行日:1965年7月1日Published: July 1, 1965
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図書館の利用者と,その欲する情報とをできる限り容易かつ経済的に結びつけるために,現在米国の医学や大学の図書館が,そのいろいろな仕事の面で試みている電子計算機の応用について概説し,最後に現在計算機の使用による文献調整活動中,最大の規模をもつ米国国立医学図書館のMEDLARSについて述べている。

計算機はもとをたどればソロバンに迄遡るが,近代的な計算機としては,1944年頃ハーバード大学で開発されたIBM社のAutomatic Sequence Controlled Calculatorが最初である。本質的には数字で表わされたデータを計算する機械であるため,数学的に処理しうる仕事に対しては利用し易い。この種の計算機は図書館でも会計事務,給与計算,貸出の記録のようなものに使用し始め,未だにこの方面での利用が最大である。しかし最近では,より興味深い分野である非計数情報の蓄積と探索にも利用されるようになってきた。

図書館各部門での利用を見ると,発注・受入では会計的な面で既に以前から計算機を導入している大学事務局との接触が多いため,発注書その他を直接カードにパンチする例が増えて来ている。この場合,ワシントン大学の医学部図書館の場合のように,後で目録係や貸出係でも役に立つような情報をも含めてパンチすることが一般に行なわれている。これらの情報が訂正されたり,他のデータが加えられたりする目録では,さらに正確な情報が要求され,通常件名,分類記号などが追加される。またカード目録と冊子目録の両者の利点を活用しようとし,ハーバード,エール,コロンビア3校協同計画の場合は前者から,ワシントン大学の医学図書館の場合は後者から,共に両者を一つのプログラムで作り出そうと,その開発を進めている。また今迄高価につきすぎて不可能に近かった総合目録作成も,メンバー図書館の蔵書の記録を一つの計算機にのせることによって,協同でできるようになってきた。MEDLARSのテープが一般の図書館でも入手できるようになれば,このような総合目録の必要は益々強く感じられるようになろう。ワシントン大学の医学図書館では,その所蔵資料中,米国国立医学図書館の所蔵していないものをMEDLARSと同じようにテープにして,両者を一度に探せるようにすることを計画している。逐次刊行物の記録を計算機にのせることは,この種の資料にその予算,館員の時間などの75%を費している科学図書館が,その開発に特別の関心を持っている。

カリフォルニア大学のラホラ地区の図書館やワシントン大学の医学部図書館などでその方法が開発されている。またこの開発されたプログラムはロスアンジェルスのカリフォルニア大学生物学・医学図書館,バンダービルト大学の医学図書館その他の図書館で利用されている。またニューヨークの医学図書館センターでは,同地区の主な医学図書館80館が所蔵する全ての逐次刊行物の総合目録を計算機にのせて作っている。その他にも,こういったユニオン・リストが幾つも作り出されている。貸出では,もともとその方法に種類が多いため,計算機を利用しての方法も数多い。最近大きな大学図書館で盛んに取り入れられる傾向がある。医学図書館での貸出は数も少く,大学図書館のように,日々これを利用するのは稀である。

ワシントン大学の医学図書館では,パンチした情報を1ヶ月毎に計算機にかけて,夫々の帯出者の借りている資料中期限の切れているものを打出させ,学期末には全ての貸出記録を打出させるようにしている。

以上述べた計算機の利用例は図書館運営上必要な記録を取扱っているものに過ぎないが,これらが充分に行なわれてこそ,資料に含まれている情報を利用者が探す助けをするような意義の深い仕事にも計算機が使用されうるようになるであろう。例えば,科学者の要求する情報を,その要求範囲をさだめるキー・ワードと,資料の内容を表わすキー・ワードとの合致の有無により選び出して提供する「情報の選択的伝播」を行なう。索引作業の面での利用は,最も一般的なものはBASICやChemical Titlesなどで使われているKWIC方式の索引である。変ったものとしてはScience Citation Indexのように,もとになった論文からそれを引用した論文をたどっていける索引がある。理論上は非常に有効な筈であるが,出版され出してから日が浅いので,実際の効果はまだ判らない。米国国立医学図書館のMEDLARSは世界の医学文献の索引であるIndex Medicusを印刷し,特定の主題の文献を周期的にリストするrecurring bibliographiesを出し,個々の人から要求される情報を探索するdemand searchesをも行なう現在世界で最も大きく最も完成された電子計算機を利用した索引で,GRACEと呼ばれる特殊の高速印刷機を利用し,種々の活字を使用している。またMEDLARSはそのテープを広く他の図書館でも利用できるように配布することによって,統制面での集中,利用面での分散といった利点を上手に一体としたシステムである。

情報を求める者と,その求める情報とをできるだけ無駄なく経済的に結びつけるという図書館の目的は皆同じであっても,その図書館の属する環境によって取られる方法は異ってくる。従って,アメリカの図書館で用いられている方法が,そのまま他の国の図書館にも当てはまるとは思われない。世界は日本の図書館員や生物学者達が,これらの問題をどのように解いてゆくかに注目している。

(Y. T.)

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