Library and Information Science

Library and Information Science ISSN: 2435-8495
三田図書館・情報学会 Mita Society for Library and Information Science
〒108‒8345 東京都港区三田2‒15‒45 慶應義塾大学文学部図書館・情報学専攻内 c/o Keio University, 2-15-45 Mita, Minato-ku, Tokyo 108-8345, Japan
https://mslis.jp/ E-mail:mita-slis@ml.keio.jp
Library Science 3: 97-105 (1965)
doi:10.46895/ls.3.97

原著論文Original Article

米国の大学図書館革新A revolution in American university libraries

発行日:1965年7月1日Published: July 1, 1965
PDF

1950年代の米国における大学図書館の学生に対するサービスの変化は,まさに革命的といっても過言ではない。この革新は勿論突如として始まったものではなく,その萌芽は,増加の一途を辿る学生に対するサービスの問題をとりあげた第二次大戦前の大学図書館に関する多くの研究の中に見出される。

大きな州立大学,主として米国中西部,西部の大学で事態は最も深刻であった。州立大学のみならず大きな私立大学においても同様,大量の学部学生に対して,いかにして効率のよい図書館サービスを行なうかが問題の焦点となった。即ち,学生数の多い大学の図書館がその中央館を通じて,質も量も異なる教授陣,研究者,大学院学生,学部学生のすべての要求を満たそうとするところに困難があった。古い大きな大学図書館では,大きな積層式の書庫に数十万,時には数百万の図書を蔵し,教員と大学院学生のみが入庫を許され,学部学生は,貸出係を通じて所要の図書を請求し,時には借り出すまでに長時間待たねばならなかった。1930年頃に建てられた大学図書館建築は書誌的研究の象徴として設計されたものであって,現代の要求に合致しない点が多かった。戦後学生が大勢になり,しかもすぐれた学生達が益々増加し,従って図書館に対する要求も量が増加しただけでなく,程度も高くなって来た。戦後間もなく多くの大学図書館では,学部学生に対しても大学院学生に対しても,適切なサービスを提供することはできなくなってきたので,総てのレベルの利用者に対してより良いサービスを提供するために,何かすばらしい手段を考え出すことが必要となってきた。

ハーバード大学では1948年,学部学生のために新たにラモント図書館を建設し,他の多くの大学に対して将来の行く道を示した。これは学部学生に対してより適切なサービスを行なうことと,ワイドナー本館に対する過重な負担を軽減するという,二つの目的を持っていた。この方法を学部学生の多い大きな州立大学に適用するには幾多の困難があったが,州立大学の中では,ミシガン大学が本館を改装し,また貯蔵図書館を新設すると同時に,学部学生図書館を別館として新設する計画を1952年に採択した。現在このミシガン大学の学部学生図書館と同規模のものを建築する計画を持っているものに,バークレーのカリフォルニア大学,イリノイ大学,スタンフォード大学がある。またテキサス大学の新しい学部学生図書館は最近完成した。

このようなやり方と反対の行き方もあることを示そうとするかのように,若干の大学では総合研究図書館を新築し,その後旧来の総合図書館を学部学生図書館に改装するという方法を採用した。この方法を最初に実行したのはコーネル大学である。ロスアンゼルスのカリフォルニア大学は10年間も建築プログラムを検討した暁に,新しい研究図書館を1964,1968,1972年と3期に分けて建築し,また主として学部学生のための図書館として旧本館を改装する予定で,その改装もまた3期に分けて施行されることになっている。

この学部学生図書館を分離するという方式がすべての人々に容認されたというわけでは決してない。新しい図書館を建てようにも建てられない大学も沢山あるし,また学部学生と大学院学生を一緒にした方がよいと考える人達もいる。このような方式のすぐれた総合図書館新築の例は,セントルイスのワシントン大学,ジョンズ・ホプキンズ大学,ノートルダム大学,ペンシルヴァニア大学に見られる。大学図書館の設計様式が決して単一なものでないということは,各大学が健全な自主性に基づいて設計し,組織しているからで,まことに意義がある。過去の図書館が記念碑的建築物として一様な建築様式であったのに比べて,独自の要求が考慮されている証である。

米国で現在建てられつつある大学図書館の建築は,教授,大学院学生,学部学生,その他の利用者の要求にマッチしたサービスに対する考慮を反映していることは,非常に意義のあることである。図書,雑誌,その他の資料が容易に入手でき,それらの資料を利用するのに便利で快的な施設があり,資料の探索利用を援助できる有能な館員がいるならば,他のことは余り重要ではない。

将来,高能率の図書館では,貸出業務管理は機械化され,データ処理に電子計算機が利用されることがかならず必要になるであろうから,近代的な大学図書館を組織するには最高の経営の才能とビジネスセンスが要求される。

米国の図書館人の中には,このような量的かつ複雑な大学の成長に対して懸念を抱く向きもあるが,問題なのは学生の量そのものではなく,その成長率であり,もし受入態勢を上廻る増加によりバランスが壊れた時こそ危険なのである。今や米国の大学図書館革新は進行中であり,この影響を受けなかった図書館は一つもない。このような変りゆく事態の中で,いつも変らないものは,アメリカの図書館人の合言葉“サービスの精神”であろう。

(T. S.)

This page was created on 2022-07-29T10:38:48.918+09:00
This page was last modified on


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。