日英両国は,過去10年間教育面において,様々な似かよった社会的変動を経験した。両国政府のこのような社会問題に対処する仕方にもかなりの類似点がみられる。一方,政府がとりうる施策には両国間に大きな,かつ重要な制度上の差が存在するため,異なった結果を生み出している。新しいスタイルの高等教育の特質・性質は,大学等の図書館・情報サービスに当然反映され,また間接的にその他の教育機関およびそれに付随する図書館サービスにも影響を与える。
本稿は,日英両国における最近の教育面での動きを背景に,日英両国における図書館活動の事情を対比的にとりあげる。
英国では,学校教育と卒業以後に直面する就職難の社会における適応訓練との結びつきが重要視され,ばらばらであった多くの教育活動が互いに関連を持つようになった。特に高校卒業年次での教育形態・方法に多くの関心がよせられ,16才以上の生徒を受け入れる “sixth-form college”,あるいは “tertiary college” の導入が試みられている。
英国政府は職業教育に関して大学およびポリテクニックに影響を与える様々な施策をとってきた。教育・科学省ではなく雇用省の管轄下にあるManpower Services Commission(MSC)は,職業の選択,職業訓練,求職,雇用が円滑に行えるように,種々の教育・訓練計画を実施している。さらに地方レベルで教育と産業との結びつきをはかるRegional Advisory Councilsもその例である。同様の活動を行う独立団体としては,Royal Society of Arts,City and Guilds of London Instituteがあり,新しい知識や実践的知識の提供につとめた。また,Technical Education CouncilとBusiness Education Councilは,MSC計画の延長線上で,より高度の学術レベルでの教育を可能にしている。このような国家的・社会的見地から広範囲にわたって職業教育を相互関連的に行う中で,図書館・情報サービスの必要性がとらえられている。
労働組合,専門職団体も職業教育に強い関心を持っている。もちろん労働団体,専門職団体は,正規の教育・訓練は教育機関に委譲しているが,職業の基準・質に対する影響力は依然として強い。これは社会に広く分布し,他の専門職に属する同僚とその仕事ぶりや能力が比較される図書館員・情報専門家にとっては,非常に重要なことである。英国の教育界では,図書館員は教員と同等の待遇をうけているが,それは雇用当局との交渉の前に,Library Associationと種々の教員組合との間ですでに同等性が確立されていたからである。公共図書館の場合でも,National Association of Local Government Officersは,図書館員の地位を地方公務員の中で正当に認め,専門職の地位はLAに登録された図書館員で充当されることになっている。
一方,日本では専門職団体に対する認識はまだ確立されていないが,これは以下に示す互いに関連する二つの社会的要因によると思われる。
英国では大衆教育において,図書館が歴史的に重要な役割を果たし,最初の教育法の成立よりも20年早く1850年に公共図書館法が成立したように,公共図書館が重要な教育サービスとして決して無視されることはなかった。さらに,英国の公共図書館は個人教育に根をおいていたため,レファレンスおよび情報サービスは,まず個人個人を対象にして行われた。そのうえ,大公共図書館は戦前の大学図書館よりも効果的なレファレンス・サービスを学生達に行っていた。これは日本の公共図書館にはかってなかった現象である。また,英国の公共図書館のレファレンス部門は,郷土史および郷土資料に関心を示し,かなりの郷土資料を有し,地方の公文書館としての役割を長い間努めてきた。
日本で図書館に対する認識が低い2番目の要因は,職業教育・訓練の計画・実践に,学会,専門職団体が表面上小さな役割しか演じていないことである。日本では主要な専門職の資格は,国家試験により与えられているにもかかわらず,図書館・情報学分野では,国立大学の図書館員以外には国家試験が存在しない。一方,文部省,図書館専門職団体は図書館員の過剰供給を制御するすべを持たない。また,図書館が資格のない人間に夏期研修で資格をとらせ正規職員にする場合があるが,これは有能な図書館員の雇用の道をとざし,過剰供給と共に図書館サービスの基準や質を低下させることになる。なお,図書館・情報学を教養科目としてとらえるのも,もちろん意義があり有用であるが,図書館専門職教育との区別は厳密につけねばならない。このような問題を解決するためには,より強力な専門職団体が必要であるが,若い図書館員間での鋭い専門職論議・論争が欠如している。この種の行為が英国の図書館界ではごく当り前であるため,非常に目につくのである。
日英両国の大学図書館を政府の政策から比較してみると,日本では文部省が学生数を国立大学図書館の職員数を計算する基礎にしているのに対し,英国ではUniversity Grants Committeeが大学図書館を直接管理し,蔵書の認めうる最大値を計算する基礎として学生数を使用しており,その他資料の85%を開架とすること,協同廃棄計画を含む図書館相互協力活動の実施などを求めている。
英国における図書館相互協力は多岐にわたり,LASER(公共図書館と専門図書館),BLCMP(大学図書館と公共図書館)のように館種を越えた協力活動が行われている。さらに,地域社会との協力では公共図書館が大きな役割を果しており,その好例が,カレッジ,学校,病院,図書館,娯楽施設が一緒になったマンチェスターのAbraham Moss Centreである。
一方,日本では過去の公共図書館サービスの不適切さが尾をひいて,現在でも地域社会の財産としての価値は高くない。日本の公共図書館の活路は,公共図書館間だけでなく館種を越えた協力活動にある。
British Library Research and Development Divisoinは,図書館・情報学の研究を振興する責任を荷なっており,全ての図書館および図書館学科は,直接あるいは間接に,その恩恵にあずかっている。研究を行う中心的機関がきめられており,図書館経営に関しては,初めは Cambridge 大学,現在はLoughborough大学が受持っている。利用者研究は Sheffield 大学,プライマリー・コミュニケーション研究はLeicester大学が中心となっている。また,BLはLAその他の専門職団体への研究資金の提供,セミナー・会議・プログラムの手配,図書館相互協力機械化プロジェクト(例えば,BLCMP,スコットランドにおける書誌データのオンライン・ネットワーク)や,LASERへの資金援助,他の団体との研究の調整,LAのRADIALS Bulletin(Research and Development-Information and Library Science)の出版補助,図書館学教育者・研究者に対する研究資金の提供を行っている。
ところが,日本では,研究を振興する体制が非常に不備であり,また研究を遂行できる能力・体制を持つ図書館・情報学関係の教育機関はわずかである。
日本で図書館・情報誌教育がどのように行われているかを十分理解することができなかったが,これは日本の多くの図書館員にとっても同様であるように思われる。図書館・情報学を副専攻として開講している教育機関が氾濫しているため,重要な専門職の資格を与えるものとして図書館・情報学教育を綿密に考えることが欠如しているようである。カリキュラムも図書館・情報活動の様々なトピックを集めたものが多く,勉強の仕方・教授法についてほとんどふれていない。英国には図書館・情報学教育者間で種々な問題を討議し,意見・経験の交換を行う場を提供するAssociation of British Library and Information Studies Schoolsが存在するが,日本でも同様な機能を持つ場の確立が,図書館現場と様々な問題について討議する公式の場の確立と共に必要であろう。(K.H.)
© 1978 三田図書館・情報学会© 1978 Mita Society for Library and Information Science
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