この論文は,イギリスの図書館事情を,歴史的背景,公共図書館,国立図書館,大学図書館,図書館員の地位,図書館基準,機械化の動向の諸側面から紹介したものである。
歴史的背景としては,300年の歴史をもつ図書館の推移を,主として19世紀以降に入ってからの図書館振興に関連する条令について,年表的に紹介している。
公共図書館はイギリスの社会文化,社会教育の根幹であり,現在における普及状況を数字的にふれ,本分館併せて3,460館,ブックモビール530台,4,000箇所のサービスポイントは,日本の763館に比較して別世界の感がある。人口12,500人当り1館の普及に対して,日本の普及率は,131,600人当り1館と,その差異を著者は指摘している。
国立図書館は,既存のNational Central Library, National Lending Library for Science & Technology, British Museum Library, National Library of Scotland, National Library of Walesをあげ,特に前三者の規模および機能の概略を紹介している。British Museum Library(l753設立)は,衆知のように国家的な参考調査図書館であり,これに対しNational Central Library(l916年設立)は,公共図書館の国立本館的機能を持ち,図書館間相互貸借,利用頻度の減少した資料の保存センター,逐次刊行物の総合目録の発行等を中心業務としている。National Lending Library for Science & Technology(l954年設立)は,32,000種の逐次刊行物,180,000種のモノグラフ,32,000種の外国紀要,マイクロ資料多数を擁して,科学技術分野の情報センターである。
大学図書館は,数百年の歴史の厚みの上に,4百万冊のケンブリッジ大学図書館をはじめとし,8万冊クラスのカレッジ図書館を含め,44大学図書館の存在にふれている。
図書館員の地位は,社会的には,ほぼ教員と同等に認められ,特に,図書館協会のシラバスによる試験制度が,図書館員の教養を高め,地位の向上に大きな影響をもたらしたことにふれている。
図書館基準は,1959年のRoberts Reportに,現在の基盤がおかれ,特に理念として,中央と地方,大都市と中小都市の格差をもたらさないように,基準の適用が考慮されている。
最新の動向として,前記の国立図書館に加えて,Central Science Patent Collectionの設立が検討され,更に,総合的な: British Libraryなる国立図書館の設立が建議されていることを紹介している。また,機械化の動向として,出版物の量的増加にふれながら電子計算機の採用,複写技術,テレックスなどの大幅な採用など,図書館活動の多面化を紹介している。一見保守的に見えるイギリスが,文化活動の中核となる図書館については,実に積極的,進歩的であるのは注目に値する。
(S. W.)
© 1971 三田図書館・情報学会© 1971 Mita Society for Library and Information Science
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