メルヴィル・デューイが図書館学教育を創始(1887)してから,すでに1世紀に近い。インドでは1929年マドラスの図書館学校を最初として,今日では約26の大学で図書館学教育が行なわれるようになった。しかしながら,他の領域に比して,図書館学教育ならびに図書館業務には中心がないことが痛感される。
図書館業務を,図書選択,発注,雑誌の収集,展示,受入,分類,目録,貸出,および参考業務に分けてそれぞれについて,どれがその中枢(ハブ)に値するかを考察した。
図書選択は単に図書の知識を要するのみであり,その他のルーチン業務もこれに値しない。分類・目録作業は知的な努力を要するとはいえ,前記の諸業務がこれから発生するというものではなく,むしろその逆であり,従って中枢にはなり得ない。
残されたものは参考業務である。従来,参考業務の理論は,図書の質と読者の心理的性質とに基いてきた。教育心理学によれば,持続的興味によって裏付けられない限り,学習は全く機械的,漂動的なものにすぎないといわれている。しかも,このような興味は目的に対する好奇心から生まれる。従って,ここでの問題は図書館学の学生および館員に,これを喚起するような業務を見出すことである。
さて,Ready Reference Service(即時参考業務)は,適当な参考図書から,読者の求める事実あるいは情報の切端をとり出すにすぎない。これの反覆によって多数の参考図書の得失に習熟することはできるが,結局ナゾ解きの興味をそそるのみである。他の業務の理解を導く持続的興味は生じない。
参考業務は読者のために一片の情報をつまみ出すことではなく,むしろ読者に最新の考え方,あるいは探求方法を示すべきである。このタイプの参考業務は即時参考業務に比して明らかに時間が長くかかり,広範な文献探索をする必要がある。それ故,これをLong Range Reference Serviceと名付ける。
Long Range R.S.は,他の図書館業務にも刺戟を与える。たとえば参考業務で?々使用する重要文献が所蔵されていない場合には,収書部門に調達を請求する。あるいは,読者の必要とする資料を図書の一部分に見出したが,これが目録に明示してない場合には,これを整理部門に通報する。
図書館学科の学生は,就職後必らずしも参考部門に配置されるとはかぎらない。そのためルーチン部門の退屈に陥るかもしれない。それ故,在学中に徹底的にLong Range R.S.を体得させ,これによって将来いかなる部門に配置されても,その業務の意義が理解できるようにする必要がある。
この実施方法として“臨床教育”が必要である。これは5段階に分けて行なう:(1)Shelf study,(2)Catalogue study,(3)教師の実施を観察する,(4)教師の指導下に実習する,(5)独立で実施し,教師の評価・訂正を受ける。この臨床教育は3~4名をこえない少人数でなければならないから,担当科目の如何を問わず,全教員の分担により小グループを編成する。
Shelf studyは書架上の実際め図書から,分類法の理解を深め,これが探索にどのように役立つかを体験せしめる。Catalogue studyでは,分類目録ファイルを精査する。書架検索と異なり,書架排列に加えて分類:転出・分出の意義が明らかにされる。
第3段階では先ず読者を知る。学生は教師のやり方から,読者の質問呈示,これについての教師のファセット分析から問題の定式化の過程を理解する。さらに教師がこれに説明を加え,討議する。
この段階を十分に体験してから実習に入る。ここでは教師の指導は控え目にし,実習後の講評を十分に行なう。最終段階では学生はひとりずつ別個の問題を独力で解決する。もちろん実施後に,講評を加える。
以上の臨床教育は教員のほかに,図書館職員の協力が必須である。またこれによって学生は参考部門のみならず図書館業務の全スペクトルにわたって,それらの意義を知り,かつ参考業務が真に業務の中枢(Hub)となることを知るのである。
図書館の5法則として既に発表した規範原理の第1位にあるのは“図書(文献)は利用のためにある”ということである。これこそ参考業務の機能と目的であり,図書館学のいわば家令に当り,他の業務は小間使いであるともいえよう。
そして終極的に,図書館の社会的機能は人の精神資源の耕作にあり,参考業務はその手段となり,図書を肥料として,知識と情操が開花するのである。
(Y. K.)
© 1971 三田図書館・情報学会© 1971 Mita Society for Library and Information Science
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