Library and Information Science

Library and Information Science ISSN: 2435-8495
三田図書館・情報学会 Mita Society for Library and Information Science
〒108‒8345 東京都港区三田2‒15‒45 慶應義塾大学文学部図書館・情報学専攻内 c/o Keio University, 2-15-45 Mita, Minato-ku, Tokyo 108-8345, Japan
http://www.mslis.jp/ E-mail:mita-slis@ml.keio.jp
Library and Information Science 83: 25-45 (2020)
doi:10.46895/lis.83.25

原著論文Original Article

学生生活タイプごとに見る大学図書館利用パターンRelationships between Students’ University Library Usage Patterns and Their Lifestyle Types

明星大学Meisei University ◇ 〒191–8506 東京都日野市程久保2–1–1 ◇ 2–1–1 Hodokubo, Hino, Tokyo 191–8506 Japan

受付日:2019年4月5日Received: April 5, 2019
受理日:2019年12月5日Accepted: December 5, 2019
発行日:2020年6月25日Published: June 25, 2020
HTMLPDFEPUB3

目的】大学教育改革のなかで,大学図書館は教育への関与が求められるようになった。本研究の目的は,学生生活の送り方によって大学図書館の利用パターンに変化が現れるのかを明らかにすること,ならびに学生生活,大学図書館利用,学習成果の3者の関係を明らかにすることである。

方法】調査方法は,インターネットを利用した質問紙調査とした。調査対象は,都市圏(東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県,愛知県,大阪府,京都府,兵庫県)に所在する大学へ通う学士課程の学生(通信教育,留学生,社会人経験者は除く)とした。マクロミルのモニター会員を利用し,質問票の配布と回収はマクロミルへ委託した。目標サンプル数を400とし,2016年7月19日に質問票を配布し,翌日の7月20日に目標サンプル数に達したため調査を終了した。有効回答数は412であった。

結果】学生生活のなかで費やしている活動時間から学生生活を類型化し,5つの学生生活タイプを見いだした。学生生活において学習や読書を重視するタイプ1, 交友を重視するタイプ2, 電子メディアツールを多用するタイプ3, 活動的な側面が見いだせないタイプ4, いずれの活動も平均に近いタイプ5, 以上の5つである。合わせて大学図書館の利用パターンを類型化したところ,2つの利用パターンが明らかになった。図書館資料の利用を主とする従来からある利用方法,ならびに友人との交流や休息場所としての大学図書館の利用である。それぞれの学生生活タイプの大学図書館利用パターンを分析したところ,学生生活の送り方に呼応するように,それぞれのタイプが異なる大学図書館の利用パターンを有していることが明らかになった。また,図書館の利用頻度が同程度であっても獲得した学習成果は異なることが明らかになった。

Purpose: As part of wider reforms in university education, university libraries are now expected to have greater involvement in the education of students. This study examines the relationship between university library usage patterns and the ways students live their daily lives; exploring links between student lifestyles, university library usage, and learning outcomes.

Method: A questionnaire-based survey was conducted via the Internet. The survey subjects were undergraduate students (excluding correspondence students, foreign students, and students attending university after experience in the workplace, etc.) who were attending university in an urban area (Tokyo, Kanagawa, Saitama, Chiba, Aichi, Osaka, Kyoto, and Hyogo prefectures). Macromill, Inc. was commissioned to distribute and collect the questionnaire form using monitors registered with the company. The target sample was 400 students. The questionnaire forms were distributed on July 19, 2016, and target numbers had been achieved by the next day, July 20. There were 412 valid responses.

Results: Student lifestyles were classified according to how much time they spent performing various activities. Five student lifestyle types and two university library usage patterns were identified. Analysis of the relationship between student lifestyle types and library usage patterns indicated that each lifestyle type was related to a particular pattern of library usage, thus confirming our hypothesis. It was further found that students’ learning outcomes differed, even when their frequency of library usage remained the same.

I. 研究の背景と既往研究

A. 研究の背景

1. 2000年代以降の大学図書館の変化

2006年に米澤誠が北米の大学図書館に広がっていたラーニングコモンズを紹介したころから,近年の大学図書館をめぐる環境は様変わりした1, 2)。この背景には大学図書館に教育への関与が求められたことがあり,大学図書館による大学教育,あるいは学生の学習成果への貢献が探られるようになった。本論では初めに,こうした大学図書館をめぐる状況を確認したい。

科学技術・学術審議会は,2010年に審議のまとめ『大学図書館の整備について』3)を,さらに2013年には『学修環境充実のための学術情報基盤の整備について』4)を発表している。2010年の審議のまとめでは,情報リテラシー教育や学習支援を通して,大学図書館が教育へ直接的に関わることが提言された3)。そして2013年の審議のまとめでは,これを具体的に進めるための方策として,学習のためのコンテンツや人的支援の提供が見込める大学図書館にラーニングコモンズのような環境を構築することが提案された4)。ラーニングコモンズを通して,大学図書館が教育への関与を強化することが目指されたと理解できる。

竹内比呂也は,2008年の『学士課程教育の構築に向けて』(中央教育審議会答申)と2012年3月の中央教育審議会大学分科会大学教育部会『予測困難な時代において生涯学び続け,主体的に考える力を育成する大学へ』(審議まとめ)以降の政策文書において,大学図書館の機能と,教育および学習の関係が見直されるようになったと述べている。そして,大学教育の質的転換という大きな枠組みのなかで図書館に期待が寄せられ,その機能強化が語られている点に価値を見いだしている5)

近年の大学図書館は,資料の保存や情報へのアクセスに留まらず,大学本体と一体となって教育,あるいは学生の学習成果の向上へ貢献することが目指されるようになったと言える。それならば,大学図書館は大学の教育へ効果的な働きをしているのか,学生の学習に貢献しているのか,といった点に大学図書館の評価軸も移っていくと思われる。

2. 大学図書館の評価法

Megan OakleafはValue of Academic Librariesで,大学図書館はその活動を大学の目標や使命と合致させ,評価もそれに沿って行うべきであると述べている。そして,例えば学生の卒業率や学業の達成状況などへ図書館がどれだけ関わっているかを示すことで図書館の「価値」を示すことを提案した6)。以後,大学や学生の活動と関連付けて大学図書館を評価しようとする試みが広がった。2017年にはACRLがAcademic Library Impactを発表し,大学教育や学生の学習と大学図書館との関わりをテーマとする研究成果について,近年の状況をまとめている7)

国内においても2000年代の初めには大学図書館がどのような価値を生み出しているかが注目されはじめた。三浦逸雄は,大学運営にPDCAに従った評価が求められるようになったとの天野郁夫の論を参照しながら,大学図書館にも同様の評価と説明責任という視点が求められると述べている。さらに図書館評価の焦点が学習効果へのアウトカムに移ってきていると述べている8)。これには,例えば戸田あきらに見られるような大学図書館のアウトカム研究の例がある9)。次節では以上のような,大学図書館と大学の教育活動とを結びつけて大学図書館の「価値」や「インパクト」を探った研究を確認する。

B. 既往研究と本研究の課題意識

1. 大学図書館インパクトについての既往研究

大学図書館の教育や学習へのインパクトを測定する方法として,欧米ではGPAと大学図書館の利用との関係を探る研究が行われている。GPA(Grade Point Average)とは,学業成績の指標のことで,履修科目の取得単位あたりの平均評価点を求めたものである。算出方法は,例えば「可=2点」から「秀=5点」などと評点を設定し,それぞれの評点にその科目の単位数を乗じたものを合計し,最後に取得単位数で除して求められる。

香港浸会大学図書館(Hong Kong Baptist University Library)のShun Han Rebekah WongとT. D. Webbは,図書館資料の利用とGPAの関係を研究した。この調査では,2007年から2009年の卒業生8,701名を学位と専攻分野においてグループ化し,そのうち48グループの貸出数とGPAの相関を調査した。その結果,31グループ(65%)に貸出数とGPAに正の相関(r=0.119~0.494)が見られたとしている10)

また,Alexander W. AstinのI-E-Oモデルを理論的枠組みに採用することで,大学図書館のインパクトをより精緻に分析しようとする研究も見られる。I-E-Oモデルとは,大学の教育成果に影響を与える要因の構造をモデル化したもので,第1図の通りである。

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第1図 AstinのI-E-Oモデル

出典:Astin, Alexander W., et al. Assessment for excellence: The philosophy and practice of assessment and evaluation in higher education. 2nd ed. Rowman & Littlefield Publishers, 2012, p. 20 上記出典をもとに著者が作成

インプット(Input)は,学生が大学教育に先んじて,あるいは大学教育とは別個に有している既得情報や資質である。高校時代の成績,家庭や文化的な背景などがこれにあたる。環境(Environment)は,大学そのもののことである。大学での経験,教員や友人との関係といった教育課程で経験することが相当する。アウトプット(Output)は学業成績や進学や職業キャリアなど,教育の結果として得られる成果である11)。アウトプットがインプットや環境によって規定される,という理論をモデル化したのがI-E-Oモデルである。

Felly Chiteng KotとJennifer L. Jonesは,2010年から2012年までのジョージア州立大学の学生の図書館の利用とGPAとの関係を,I-E-Oモデルに基づいて分析している12)。インプットに学生の人種や性別といった人口統計的な属性と専攻分野,そして高校時代のGPAを含む大学入学前に取得した学業スコアを,環境には図書館の利用(ワークステーションや学習室の利用,検索講座への出席),アウトプットには大学1学期のGPAを用いている。その結果,学生の属性によって図書館の利用傾向が異なることとともに,図書館の利用は小さいながらもGPAの向上と関連が認められるとしている。

また,John K. StemmerとDavid M. MahanもI-E-Oモデルに基づいて図書館の利用と,卒業率の改善やGPAの向上などのアウトカムとの関係を探っている13)。Stemmerらは学年をインプットとして用い,例えば2年次まではアウトカムとポジティブな関係が見られていたライティング支援などのサービスの利用が,3年次にはネガティブな関係に転化するなど,それぞれの教育段階における図書館の利用とアウトカムとの関係の変化を報告している。

この他にも,学業継続率を用いて大学図書館による教育への貢献を探った研究が存在する14, 15)。また,Krista M. SoriaらはI-E-Oモデルに基づき,大学1年生のGPAやエンゲージメント(Engagement)と大学図書館との関わりを分析している16)。エンゲージメントとは,学習や教育活動への学生の積極的な関わりを表す言葉で,教育学で研究が重ねられており17, 18),大学図書館の研究においても議論が広がりつつある19)。他にもLearning Analyticsの図書館への適用について議論されるなど20, 21),教育学の手法を応用した研究が広がりつつある。

国内では,戸田あきらの大学図書館のアウトカム研究がある。戸田は,2003年に文教大学越谷校舎の卒業生を対象に在学中の図書館利用と学習成果に関する質問調査を行い,大学図書館の利用と学習成果には正の関連性があることを相関分析によって示した9)。また,2005年に慶應義塾大学湘南キャンパスの学生を対象に,学生の大学図書館利用と学習成果の関係を調査している22)。そこでは,大学生の図書館利用パターンに着目し,利用者を4グループに分類し,それぞれの利用パターンと学習成果の関係を探っている。その結果,学習のために図書館資料を利用するグループや面白い本を求めて図書館へ来るグループは高い学習成果を認知しているが,場所の利用だけを目的としているグループは図書館を利用したことによる学習成果の認知が低いことなどが確認されている。

2. 本研究の課題意識

Wongらは貸出数を用いて図書館利用とGPAに相関があることを明らかにした。しかし,学習成果には図書館の利用だけが関わっているわけではなく,いわば交絡因子の存在が想定されるだろう。I-E-Oモデルを用いたKotらならびにStemmerらの研究によって,図書館の利用内容の違いとともに,学生の属性といった要因によっても学習成果が異なることが示されるなど,学習成果と図書館の利用に介在する因子が探求されている。本研究の課題意識は,大学図書館の利用と学習成果の関係には学生の属性はもとより,性格を含めた学生の性向や行動特性によって,ある種の「ムラ」が生じるのではないかという点にある。大学図書館と学習成果の関係は安定的なものと考えてよいのか,あるいは何らかの要因による「ムラ」や「揺らぎ」が存在するのかどうか,それが本研究の関心である。

戸田の研究には,この問題を考えるための重要なヒントがある。その研究では大学図書館の利用方法には学生によってパターンが存在し,そのパターンごとに学習成果が異なることが示されていた22)。このとき,大学図書館の利用パターンの形成に関わっている変数とは何であるかが問題である。利用パターンによって学習成果が異なるとすれば,その利用パターンの形成に関わっている変数こそが,大学図書館の利用を通して学習成果に影響を及ぼす変数であると考えられる。

同論文の中では,何によって利用パターンが形成されているかについては言及されていない。ただし,キャンパスの在り方によって固有の利用パターンが生じている可能性が指摘されている。そこで思い当たるのが,キャンパスの在り方というよりは,個々の学生のキャンパスでの過ごし方,つまり学生生活の違いである。

教育学において,溝上慎一は普段の行動や活動時間といった学生生活の送り方に焦点を当て,全国の大学生を対象とする学生生活に関する質問調査を行った23)。調査結果に基づき学生を4つのタイプに類型化し,各タイプの学習時間,知識,技能の獲得などの教育効果を測定し,学生生活の送り方によって教育効果が異なることを示している。

学生生活の送り方によって学習成果が一律ではないのは,学生生活の送り方による学習行動に相違があるためではないかと考えられる。このことは,大学図書館にも当てはまるのではないだろうか。Kotらは,図書館の利用には学生自身の選択バイアスが存在することを指摘している12)。この選択バイアスは利用パターンと言い換えることもできるが,学生生活の違いはこの選択バイアス,つまり,利用パターンとなって現れている可能性がある。言い換えると,学生生活が大学図書館の利用という学習行動に関わっている可能性がある。このことから本研究では,大学図書館の利用パターンは,学生生活の送り方によって異なる,という仮説を設定した。この仮説を検証することで,学生生活は大学図書館の利用と学習成果の関係に「ムラ」や「揺らぎ」をもたらす変数として介入しているかを検討することができるようになるだろう。

C. 本研究の枠組みと目的

本研究ではI-E-Oモデルを参考に,第2図に示したモデルを研究の枠組みとして設定した。インプットには大学図書館の利用を必ずしも想定しない学生生活を用いる。本研究では学生生活においてどのような活動に時間を費やしているかを調査した。環境には大学図書館の利用頻度や利用経験を用いる。最後にアウトプットには,学習成果を当てはめる。

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第2図 本研究の枠組みを表すモデル

本研究における学習成果とは,学生が自覚する学業成績と大学図書館の利用を通して得たと考える学力によって測定するものとする。学習成果を測定する方法には,GPAやレポートの点数など,学習の結果をスコア化するなどして直接に評価する直接評価と,質問調査などで学生の学習経験や満足度など,学生の自己認識をもとに評価する間接評価の2種類が存在する24)。本研究での学習成果は,学生の自己申告によるおよその成績位置(上位,下位など)と,大学図書館利用を通して得たと学生が自認している学力によるものであり,これらは間接評価にあたる。

間接評価による学習成果の把握は,欧米の学生調査においても学生の成長を測定する指標として用いられており,Ernest T. PascarellaとPatrick T. Terenziniは学生の自己評価による結果が直接評価と整合的であると指摘している25)。また,欧米の学生研究を基に山田礼子らは日本版学生調査(JCSS: Japanese College Student Survey)を設計した。その際,質問項目の一つに学生の成績位置の自己評価を設けて学習成果を測定している26)。カレッジ・インパクト研究と呼ばれるこれらの研究において,直接評価とともに間接評価も学生の成長を捉えるにあたって重要な指標であると考えられており,本研究で用いた学生の自己評価による学習成果の測定にも一定の意義があるものと考える。また,本研究の調査対象の学生は所属する大学を特定していないため,GPAなどのスコアは評価の基準が大学によって異なり適切ではないと考えた。これも,間接評価を用いた理由の一つである。

第2図のモデルはI-E-Oモデルを参考にしているが,同一のものではない点には注意したい。I-E-Oモデルのインプットは学生の特徴を表すが,性別や人種,または高校までのテストスコアなど,大学入学前に確定している性質であり,以後変化することがない。一方で本研究のインプットである学生生活は,大学入学後に様々に変化する可能性がある。本研究のモデルは今日の大学図書館と学習成果の関わりを検討するために,I-E-Oモデルを参考に考案したものである。旧来の大学図書館の利用方法は,資料の閲覧・貸出と勉強場所にほとんど限られていた。それが,ラーニングコモンズが一般的になった後の大学図書館は必ずしも資料の利用や学習を前提としない利用も「公認」されるようになった。本研究のモデルは,こうした学生生活と大学図書館の相互作用が,どのようにアウトプットに関わるかを検討するためのものである。

本研究の目的は,学生生活の送り方と大学図書館の利用パターンとの関連を明らかにすることである。学生には勉学に励む学生もいれば遊び好きな学生もいる。または課外活動に熱心な学生がいる一方で,漫然と日々を過ごしている学生もいるだろう。性別や所属する学部のような属性が同じであっても様々な学生生活が考えられる。それらが大学図書館の利用にどのように現れているのかを明らかにすることが,本研究の目的である。

さらに,そうした学生生活と大学図書館の関わりが学習成果に何らかの影響を及ぼしているかどうか,言い換えると,大学図書館の利用は,どんな学生にも一律の「効果」を期待できるものかどうかを検討する。本研究では学習成果として学業成績(自己評価)を用い,図書館の利用は貸出と入館頻度を用いて,学生生活タイプごとに違いを確認する。もし,同程度の図書館利用頻度があるなかで,学習成果に違いが見られたときには,大学図書館の利用と学習成果の間に学生生活の介在を考えることができる。本研究では,これら学生生活,大学図書館,学習成果の3者の関わりを考察することを目的とする。こうした大学図書館と学習成果の「揺れ」を検討することで,大学図書館と学習成果の関係の実態に少しでも迫りたい。

II. 調査方法

A. 調査方法の概要

本研究では学生生活,大学図書館の利用および学習成果について,インターネットによる質問紙調査を行った。本来であれば諸条件をなるべく均一にするという点から,特定の大学の学生を対象に調査することが望ましい。しかし,個人情報保護の観点から調査の許諾が得られる大学を見つけることができなかった。そこで,今回はマーケティングリサーチを主な事業とする民間の調査会社であるマクロミル27)のモニター会員を利用したインターネット調査を行った。

B. 調査項目の設計

質問項目は「学生生活と学業成績」,および「大学図書館利用」の2つの部分に大きく分けられる。第1表に質問項目の概要を示す。

第1表 質問紙調査における質問項目の概要
問1最近1週間で,次の活動にどれくらいの時間を費やしましたか?(それぞれに回答)
1)授業に関する勉強 2)授業とは関係のない自主的な勉強 3) SNS, メールやLINE 4)友だちと会って遊ぶ 5)クラブ・サークル活動 6)テレビやDVD視聴 7)インターネット・サーフィン 8)ゲーム(ゲーム機,コンピュータ,カード等) 9)勉強や教養のための読書 10)楽しみのためのマンガや雑誌を読む
選択肢1) 1時間未満 2) 1~5時間未満 3) 5~10時間未満 4) 10~15時間未満 5) 15~20時間未満 6) 20時間以上
問2大学での成績はどれくらいですか?
選択肢1)上位の方 2)中の上 3)中くらい 4)中の下 5)下位の方
問3もし大学を選び直せたら,あなたはもう一度いまの大学に進学しますか?
選択肢1)必ずする 2)たぶんする 3)わからない 4)たぶんしない 5)絶対しない
問4あなたは今年の4月からこれまで,大学の図書館をどれくらい利用していますか?
選択肢1)利用したことがない 2)月2~3回 3)月4~8回 4)月9~12回 5)ほぼ毎日
問5あなたは今年の4月からこれまでに,大学図書館で本をどれくらい借りましたか?
選択肢1) 0冊 2) 1~10冊 3) 11~20冊 4) 21~30冊 5) 31冊以上
問6あなたが大学図書館を利用するとき,次のような利用の仕方をすることはありますか?(それぞれに回答)
1)図書館のパソコンでネットや動画視聴をしたり,娯楽雑誌を見たりする 2)友だちと会ったり,おしゃべりしたりする 3)面白い本はないかと,本棚をみてまわる 4)授業に関する課題や試験勉強のために席やパソコンを利用する 5)授業とは別に,自主的な勉強や読書のために席やパソコンを利用する 6)授業に関する課題や試験勉強のために図書館の資料を利用したり借りたりする 7)授業とは別に,自主的な勉強や読書のために図書館の資料を利用したり借りたりする 8)授業に関するグループ作業やディスカッションのために,グループ学習室や談話可能なスペースを利用する 9)課外活動や友人同士の活動のために,グループ学習室や談話可能なスペースを利用する 10)とくに目的もなく席で静かに過ごしたり,寝たりする
選択肢1)ほぼ毎回 2)よくある 3)ときどきある 4)あまりしない 5)まったくない
問7あなたは大学図書館の資料と空間や設備の利用を通して,次のことをどれくらい得られたと思いますか?(それぞれに回答)
1)専攻分野の専門知識 2)教養や社会常識 3)社会や人間に対する新しい見方・考え方 4)面白い本との出会い 5)自分なりに物事を考える力 6)情報を探して利用する能力 7)口答や文章でのコミュニケーション能力 8)大学での居場所 9)勉強することが面白いと感じる経験 10)自分を律して学ぶ習慣や態度
選択肢1)大いに得られた 2)ある程度得られた 3)少しは得られた 4)あまり得られていない 5)まったく得られていない
問8あなたの専攻分野を教えてください
選択肢1)人文科学系 2)社会科学系 3)理学 4)工学 5)農学 6)医・歯学 7)薬学 8)家政 9)教育 10)芸術 11)その他【  】
問9あなたの大学の規模(学部数)を教えてください。
選択肢1) 8学部以上 2) 5~7学部 3) 2~4学部 4) 1学部

学生生活と学業成績についての質問項目は,溝上慎一による学生類型と学習成果の関係についての研究23),及び山田らが実施したJCSS2005を参考に設計した26)。その際,回答者の負担を考慮して質問項目の取捨選択を行ったほか,質問文の平易な言葉での言い換えを行った。なお,問1のSNSやメールの使用時間は本研究で独自に加えた質問項目である。

学生生活については溝上を参考に直近1週間に費やした各活動の時間を「1時間未満」から「20時間以上」まで5時間刻みの6件法で尋ねた。学業成績については,JCSSを参考にして「上位の方」から「下位の方」までの5件法で尋ねた。

大学図書館の利用については,戸田あきらの研究9, 22)を参考にした。これも文言の調整,質問項目の取捨選択や整理を施した。利用方法の質問項目で,休憩を目的とする利用についての項目,ならびに利用成果を尋ねる項目で「大学での居場所」という項目を独自に設けた。立石亜紀子による大学図書館利用実態に関する調査により,居眠りや待ち合わせなどといった利用行動が確認されている28)。こうした利用は以前からあったかも知れないが,ラーニングコモンズが普及して以降,いわば「公認」されるようになった図書館利用法である。問4と問5では入館頻度と貸出冊数を尋ねた。全ての学年で対象期間を統一するため,調査期間の年度初めにあたる2016年の4月から調査実施時点(同年7月)までの期間について尋ねた。

C. 調査対象

調査対象は,4年制大学の学士課程に通う1年生から4年生とし,以下の通りスクリーニングを行った。まず,学生生活を調査するにあたって学生の生活圏の差異による影響をなるべく均一にしつつ多くのサンプル数を確保するため,大学の所在地を都市圏に限定した。平成27年度国勢調査29),ならびに平成27年度学校基本調査30)により,人口密度と大学数の多い都府県を選んだ。本研究では東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県,愛知県,大阪府,京都府,兵庫県の8都府県を対象とした。なお,福岡県が埼玉県,神奈川県,千葉県よりも人口密度と大学数ともに多かったが,唯一本州外であり,学生の出身地や生活圏が他の都府県とは異なると考えて除外した。

次に,学生区分についてスクリーニングを行った。社会的背景や生活背景が一般の学生とは異なると考えられる社会人経験者,留学生,通信教育課程の学生は対象から除外した。学年については入学年を尋ね,2013年度から2016年度までの入学者を対象とした。従って,留年や休学等で在籍年数が5年目以上となる学生は除外されている。また,在学年数の調査結果への影響を統制するために,各入学年度にサンプル数を均等に割り付けた。

D. 調査期間と調査票の配布

調査期間は2016年7月19日から翌日の20日までである。質問票はウェブフォーム形式とし,マクロミルのモニター会員を利用した。質問票の配布はマクロミルに委託し,インターネットで同社のモニター会員へ配布した。

目標サンプル数を400とし,2016年7月20日に目標サンプル数に達した時点で調査を終了した。有効サンプル数は,2013年度から2016年度のそれぞれの入学年度で103名ずつの,合計412名である。

III. 学生生活と大学図書館利用の類型化

本章では,はじめに学生生活を類型化して学生生活タイプを作成する。続いて,大学図書館利用パターンと大学図書館の利用成果を類型化する。これらは,次章以降で学生生活タイプごとの図書館利用パターンと,図書館利用成果を含む学習成果の特徴を分析するための準備にあたる。これらの統計解析にはSPSS Statistics 23を使用した。

A. 因子分析とクラスター分析による学生生活タイプの作成

学習や交友など,学生生活における活動10項目について,直近一週間に費やした時間について因子分析を行った。分析方法は主因子法を用い,プロマックス回転を行った。固有値の減衰状況と因子の解釈可能性から3因子を採用した。第2表は因子分析の結果である。

第2表 学生生活因子の因子分析の結果
因子
1. 電子メディア消費2. 読書・学習3. 交友
インターネット・サーフィンをする。0.7680.059−0.15
テレビやDVDを見る。0.437−0.1070.154
ゲーム(ゲーム機,コンピュータ,カードなど)をする。0.3370.233−0.184
授業に関する勉強(予習・復習,宿題・課題など)をする。0.0690.033−0.006
勉強や教養を身に着けるために本を読む。−0.0260.7200.187
授業とは関係のない勉強を自主的にする。−0.0690.4550.083
楽しみのためにマンガや雑誌を読む。0.1910.307−0.112
SNS, メールやLINEなどで交流する。0.32−0.0490.608
友だち(同性・異性)と会って遊ぶ。−0.070.1020.522
クラブ・サークル活動をする。−0.1130.0550.220

因子1にはインターネット,テレビ等の視聴,ゲームの3項目が含まれた。この因子は電子メディアの消費に多くの時間を費やす因子と見なし,「電子メディア消費」と名付けた。因子2には,自主的な勉強,勉強や教養のための読書と,娯楽のための読書の3項目が含まれた。いずれも学習または読書についての項目であるため,因子2は「読書・学習」と名付けた。因子3にはSNSやメール等での交流,友人と遊ぶ,サークル等の活動が含まれた。いずれも交友関係を示す因子であると解釈できるため「交友」と名付けた。

なお,クラブ・サークル活動は因子負荷量が0.220と低い。ただし,ここでの因子分析の目的は因子得点を求め,これに基づき学生を類型化することである。そのため必要な因子として残し,この0.220を項目の採用基準とした。授業に関する勉強という項目は,因子1と因子2の因子負荷量の差が0.036と僅差であるため,因子の区別ができないと判断した。また,因子負荷量が基準値に満たないため,以下の分析からは除外した。これら3因子9項目について因子得点を算出した。

次に,因子得点に対してクラスター分析(Ward法,ユークリッド距離による)を行い,似通った学生生活因子の傾向を有するサンプルをまとめて「学生生活タイプ」に分類した。クラスター数の決定は,各クラスターの特徴を見て分析者が判断するのが一般的である。各クラスターの特徴と,次のクラスター結合段階との距離も十分であると判断し,5クラスターを採用し,5つの学生生活タイプに分類した。第3図に各学生生活タイプの因子得点の平均をグラフで示した。なお,以下の図表中の学生生活タイプの表記はスペースの都合のためタイプを「T」とするなど略記した。

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第3図 学生タイプごとの学生生活因子得点の平均

それぞれの学生生活タイプの特徴は次の通りである。本論では後の議論がしやすいように,各学生生活タイプで特に値が高い項目などの特徴をもとに各学生生活タイプに便宜上の名称を付与することにする。

タイプ1は,読書・学習の因子得点が突出して高い。そのためこれを「読書・学習タイプ」と呼ぶことにする。学生生活において読書や学習に比重をおいているタイプと言える。このタイプは25名(サンプル全体の6.25%)と少数派であった。

タイプ2は,交友の因子得点が他の2因子に比べて明らかに高い。交友関係を重視している学生群であると考えられる。そこで「交友タイプ」と呼ぶことにする。このタイプは102名でサンプル全体のおよそ1/4(24.8%)を占めた。

タイプ3は,タイプ1とともに,いずれの因子得点もプラスの領域にある。しかし,電子メディア消費の因子得点がとりわけ高い値を示している点に特徴がある。個々の回答を確認すると,電子メディア消費とあわせてSNS・メールに費やす時間も長い傾向があった。これらの点から,電子的情報ツールを多用しながら学生生活を送っている学生群であると判断し,このタイプは「電子メディア消費タイプ」と呼ぶことにする。このタイプは35名(8.5%)であった。

タイプ4は,いずれの因子の因子得点もマイナスを示しており,学生生活が不活発な様子がうかがえる。もちろん,今回の調査項目にはこのグループの学生が比重を置いている活動が含まれていなかった可能性も考えられる。しかし,本研究の範囲では他のグループと比較して非活動的であることは否めない。そのため,これは「非活動的タイプ」と呼ぶことにする。このタイプは107名(26%)であった。

タイプ5はふたつの特徴を指摘できる。ひとつは交友の因子得点が他の2因子に比べて低い点である。もうひとつは,電子メディア消費と読書・学習の因子得点がゼロ付近にあることである。因子得点が0点ということは,全体の平均を意味する。そのため,電子メディア消費も読書・学習も,人並みにこなしている姿を想像できる。含まれたサンプル数が139名(33.7%)と最も多いことからも,いわゆる平均的な学生像を想定できるグループであると考え,「平均的タイプ」と呼ぶことにする。

なお,これらは因子得点を分析した結果であるから実際の活動量を示すものではなく,サンプル全体における相対的な高低を示すものである。例えば,タイプ4は学習も交友も電子メディア消費もまったくしないということではない点には注意したい。

B. 大学図書館利用パターンの分類

席の利用,資料の利用や休憩など,大学図書館の利用内容10項目の質問について「まったくない」から「ほぼ毎日」までの5件法での回答結果に対して因子分析を行い,大学図書館利用の因子を特定した。本論では,この因子を大学図書館利用パターンと呼ぶ。

なお,質問票では回答の選択肢の1番を「ほぼ毎日」とし,以降,5番「まったくない」までとした。この選択肢の番号を因子得点の算出にそのまま利用すると,利用度の高い項目ほど値が小さくなり,反対に利用度の低い項目ほど値が大きくなってしまう。そのため,結果を読み取る際に直感的に理解しやすくするため,因子分析を行う際には逆転項目(1. まったくない~5. ほぼ毎日)として処理した。そうすることで因子得点のプラスとマイナスの符号を逆転させ,事象が直ちに理解できるように配慮した。

分析方法は主因子法を用い,プロマックス回転を行った。その結果,「授業に関する課題や試験勉強のために席やパソコンを利用する」という項目の共通性が1を超えて不適解となった。授業に関する利用と,席やパソコンの利用は他の項目でも尋ねている。そのためそれらで代替可能と判断し,この項目は削除して残る9項目で再度因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行った。その結果,固有値の減衰状況と因子の解釈可能性から2因子を特定した。第3表は大学図書館の利用方法についての因子分析の結果である。

第3表 大学図書館の利用方法の因子分析結果
因子
1. コモンズ型2. 従来型
課外活動や友人同士の活動のために,グループ学習室や談話可能なスペースなどを利用する。0.919−0.014
授業に関するグループ作業やディスカッションのために,グループ学習室や談話可能なスペースなどを利用する。0.738−0.004
友だちと会ったり,おしゃべりをしたりする。0.669−0.053
図書館のパソコンでネットや動画視聴したり,娯楽雑誌などを見たりする。0.4120.19
とくに目的もなく席で静かに過ごしたり,寝たりする。0.3290.142
授業とは別に,自主的な勉強や読書のために図書館の資料を利用したり,借りたりする。0.010.852
面白い本はないかと,本棚をみてまわる。−0.0570.732
授業とは別に,自主的な勉強や読書ために席やパソコンを利用する。0.0410.67
授業に関する課題や試験勉強のために図書館の資料を利用したり,借りたりする。0.0950.545

因子1には,グループでの利用,おしゃべり,娯楽目的の利用や休憩といった,図書館資料を主とするものとは異なる利用方法が含まれた。これは,学習とは無関係な利用も含まれるが,ラーニングコモンズやその類似機能の整備が進んだなかで認知が進んだ利用方法である。もちろん,これまでもこうした大学図書館の利用はあったと思われるが,ラーニングコモンズの普及以前は積極的に推奨される行為ではなく,ラーニングコモンズの整備が進んだことで認知が進み,言わば「公認」された利用方法であると言える。そこで,本論ではこの因子を「コモンズ型」利用と呼ぶことにする。

因子2には,読書や勉強のための場所や資料の利用,または面白い本を求めて本棚を見て回るといった資料探索行為が含まれた。いずれも大学図書館の古典的な利用形態と考えられる。そのため,本論ではこの因子を「従来型」利用と呼ぶことにする。

C. 大学図書館利用成果の種類

専門知識や居場所の獲得といった,大学図書館の利用で得たと学生が自認する成果の10項目について「まったく得られていない」から「大いに得られた」の5件法で回答を求めた。図書館の利用方法と同様に因子分析を行い,結果の整理を試みた。しかし,特定された因子は一つのみであり,固有値の減衰状況から2つ以上の因子に分解するのは不適切であると判断した。ここで知りたいのはその「学習」成果の内容にどのようなタイプが存在するかであるため,少なくとも2種類以上の利用成果に分類したい。そこで,利用成果についての質問10項目の変数に対してクラスター分析(Ward法,ユークリッド距離)を行い,解釈の可能性から3クラスターを採用した。第4表はクラスター分析の結果である。

第4表 大学図書館の利用により得た成果(学力)の分類
クラスター1(一般的学力)教養や社会常識(Q7-2)
社会や人間に対する新しい見方や考え方(Q7-3)
面白い本との出会い(Q7-4)
口答や文章でコミュニケーションする能力(Q7-7)
クラスター2(アカデミック学力)専攻分野の専門知識(Q7-1)
自分なりに物事を考える力(Q7-5)
情報を探して利用する能力(Q7-6)
クラスター3(学ぶ力)大学での居場所(Q7-8)
勉強することが面白いと感じる経験(Q7-9)
自分を律して学ぶ習慣や態度(Q7-10)

クラスター1には,社会常識やコミュニケーション能力など,大学以外でも身に付けたり活用したりする場面が多いと思われる汎用的な能力が含まれたため,これを「一般的学力」と名付けた。クラスター2には専門知識,思考力や情報探索力など,大学などのアカデミックな場で身に付けたり活用したりする能力が含まれたため,このクラスターを「アカデミック学力」と名付けた。クラスター3には学ぶことに面白さを感じることや日常的に学ぶ習慣に関する項目が含まれたため,このクラスターを「学ぶ力」と名付けた。以上,クラスター分析の結果,大学図書館の利用成果を「一般的学力」「アカデミック学力」「学ぶ力」の三つに整理できた。

IV. 学生生活タイプごとの大学図書館の利用パターンと学習成果

前章では学生生活,大学図書館の利用,そして大学図書館の利用により得た成果を類型化した。本章では,各学生生活タイプの大学図書館利用パターンと大学図書館の利用成果を含む学習成果を確認していく。

A. 学生生活タイプごとの大学図書館利用パターン

はじめに,各学生生活タイプの大学図書館利用パターンを見ていく。第4図は,学生生活タイプごとに「コモンズ型」利用と「従来型」利用の因子得点の平均をグラフ化したものである。数値がプラス方向に大きいほど,利用志向性が高く,マイナスに向かうほど低いことを意味している。

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第4図 学生生活タイプごとの大学図書館利用パターン

読書・学習タイプの大学図書館利用パターンは,コモンズ型,従来型ともに際立って高い。いずれの利用パターンもプラスの領域にあるのはこのタイプのみである。一人で勉強したり資料を利用したりといった従来型の利用だけではなく,グループワークや友人との交流,休憩にいたるまで,学生生活において大学図書館の利用が広範囲に及ぶ様子がうかがえる。

交友タイプはコモンズ型ではプラスだが,従来型ではマイナスを示した。交友の生活因子が高いことから,グループでの利用やおしゃべりなど,友人と交流しながら図書館を利用していると推測できる。個々の回答を確認したところ,やはりグループでの利用やおしゃべりでよく利用している傾向が確認できた。従来型の利用パターンはマイナスを示していることから,資料を利用したり一人で勉強したりする場所というよりも,友人と過ごす場所として大学図書館を捉えていると考えられる。これは,ラーニングコモンズやその類似機能の充実によって近年観測されるようになった利用方法である。大学図書館を資料の利用よりも,交流の場所として捉えている学生が一定数存在することが分かった。

電子メディア消費タイプが,最も大学図書館の利用志向性が低いことが分かった。多くの大学図書館でPCを備え,インターネットやDVDなどの電子メディアを利用できると思われる。しかしながら,このタイプの利用志向性には関与していないようである。電子メディア消費タイプの学生生活因子を確認すると,交友も読書・学習も比較的高い値を示しており,コモンズ型,従来型ともに高い利用志向性を示してもおかしくない。ところが,電子メディアを多用する学生群の足は,大学図書館から遠のいていることが示された。あくまで推測であるが,電子的な情報ツールを介した情報摂取が活発なため,大学図書館を利用する必然性を本人たちが感じにくいのかもしれない。

非活動的タイプは,学生生活の非活発性と連動するように,いずれの大学図書館利用パターンもマイナスの領域にある。学生生活が活発ではないとすると,容易に想像できる結果ではある。しかし,コモンズ型ではマイナス幅が小さく,全体の平均であるゼロ付近に位置している。つまり,明確に学業を目的とする従来型の大学図書館利用と比べた場合,日常的な学生生活の場面では大学図書館を利用する傾向があると言える。ここに,このタイプの学生を大学図書館の利用を通じて学生生活に馴染ませ,さらには学業に導くためのヒントがあるように思える。

平均的タイプは,交友タイプと反対のパターンを示した。勉強や資料の利用(従来型)では大学図書館を利用するが,友人と会ったり息抜きをしたりといった,日常の場面(コモンズ型)では大学図書館の利用を志向していない。確かに学生生活で交友の因子が低いため,友人と過ごす場所として図書館を利用する可能性はもともと低いと考えられる。しかし,コモンズ型には一人で息抜きをするなどの利用法も含まれる。それでも平均的タイプは,図書館のこうした利用志向性も低いことがこの結果からうかがえる。つまり,大学図書館をあくまで「勉強のために利用する場所」と捉えていると考えられる。従来からある利用者像に最も近いタイプといえる。

以上のように,学生生活の送り方によって,異なる大学図書館利用パターンが形成されていることが観測された。また,学生生活と大学図書館利用パターンには,ある程度の連動性も認められる。例えば,交友タイプは友人との交流で図書館を利用していたり,非活動的タイプは図書館の利用も活発ではなかったりといったことである。電子メディア消費タイプの大学図書館利用志向性が最も低いことは一見これに反するように思われる。しかし,PCやスマホなどの情報ツールを多用する学生が,授業の課題等で必要な情報の取得をそれらで済ませてしまえると認識していてもおかしくない。その結果,大学図書館の利用志向性が低いならば,むしろ学生生活に連動した結果であると解釈することができる。

この結果は,学生生活が大学図書館の利用パターンの形成に関わっていることを示唆している。つまり,学生生活は大学図書館利用の選択バイアスの要因の一つであると考えられる。次に,このことが学習成果にどのように関わっているかを検討したい。

B. 学生生活タイプごとの学習成果

本節では学生生活タイプごとの学習成果を確認する。はじめに,貸出と入館の頻度を使って各学生生活タイプの大学図書館の利用状況を調べる。そしてそれを,自己申告による成績位置と対比して,大学図書館の利用頻度と学業成績に関係性が見出せるかどうかを検討する。次に,図書館の利用によってどのような学力を得ていると自覚しているのかを,学生生活タイプごとに確認する。

1. 学業成績と貸出および入館の頻度
a. 学業成績(自己申告の成績位置による)

自分の相対的な成績位置についての自己評価を「上位の方」から「下位の方」の5件法で尋ねたが,回答に偏りが見られた。そのため成績が「下位の方」と「中の下くらい」を「下位」,「中の上くらい」と「上位の方」を「上位」,「中くらい」を「中位」としてまとめ,三つの回答として再集計し,カイ二乗検定を行った。また,各学生生活タイプのサンプル数が大きく異なるため,単純な数やパーセンテージの比較では結果の解釈が難しいと判断し,残差分析をあわせて行った。第5表第6表は,各学生生活タイプの学業成績の集計結果と残差分析の結果である。

第5表 学生生活タイプの学業成績の集計と残差分析の結果
成績合計
下位中位上位
読書・学習T2(8%)6(24%)17(68%)25(100%)
交友T17(17%)40(39%)45(44%)102(100%)
電子メディア消費T8(21%)8(21%)23(59%)39(100%)
非活動的T18(17%)41(38%)48(45%)107(100%)
平均的T28(20%)43(31%)68(49%)139(100%)
N=412, 単位(人)
第6表 学生生活タイプの学業成績の残差分析
成績
下位中位上位
読書・学習T−1.3−12*
交友T−0.31.4−1.1
電子メディア消費T0.5−1.81.3
非活動的T−0.31.2−0.9
平均的T0.9−0.80
*:p.<0.05

カイ二乗検定の結果,有意差は認められなかった。しかし,残差分析の結果,読書・学習タイプに成績が上位と自認する学生の割合が高いことが分かった。残りの学生生活タイプについては,電子メディア消費タイプが,やや成績「上位」の割合が高いほかは特に優劣は見られない。

b. 図書館利用(貸出と入館の頻度)

次に各学生生活タイプの大学図書館の利用を,入館と貸出の頻度によって確認する。質問紙調査で,入館回数と貸出冊数はいずれも5件法で尋ねたが,これも回答に偏りが見られたため三つの回答にまとめて再集計した。入館頻度については「月4~8回程度」「月9~12回程度」「ほぼ毎日」という回答を入館が「多い」とし,「月2~3回以下」を「少ない」,「利用したことがない」を入館「無し」とした。同様に貸出冊数については「11~20冊程度」「21冊~30冊程度」「31冊以上」を「多い」とし,「1~20冊」を「少ない」,「0冊」を「無し」とした。

これらの結果についてカイ二乗検定と残差分析を行った。第7表は入館回数と貸出回数の集計結果,第8表はその残差分析の結果である。

第7表 学生生活タイプの入館回数と貸出冊数
入館貸出
無し少ない多い合計無し少ない多い合計
読書・学習T1(4%)8(32%)16(64%)25(100%)4(16%)14(56%)7(28%)25(100%)
交友T7(7%)55(54%)40(39%)102(100%)40(39%)55(54%)7(7%)102(100%)
電子メディア消費T5(13%)17(44%)17(44%)39(100%)16(41%)17(44%)6(15%)39(100%)
非活動的T14(13%)56(52%)37(35%)107(100%)52(49%)50(47%)5(5%)107(100%)
平均的T11(8%)55(40%)73(53%)139(100%)47(34%)63(45%)29(21%)139(100%)
N=412, 単位(人)
第8表 学生生活タイプの入館回数と貸出冊数の残差分析
入館貸出
無し少ない多い無し少ない多い
読書・学習T−0.9−1.52*−2.4*0.82.3*
交友T−0.91.8−1.20.11.3−2.2*
電子メディア消費T0.8−0.4−0.10.3−0.60.4
非活動的T1.61.4−2.4*2.5*−0.4−3**
平均的T−0.7−2*2.4*−1.4−0.93.3**
*:p.<0.05, **:p.<0.01

入館頻度についてカイ二乗検定を行ったところ,有意差が認められた(χ2(8)=15.703, p.<0.05)。残差分析を行ったところ,読書・学習タイプと平均的タイプの入館が有意に多いことが分かった。貸出冊数についてもカイ二乗検定を行ったところ,有意差が認められた(χ2(8)=28.045,p.<0.01)。残差分析を行ったところ,これも読書・学習タイプと平均的タイプの貸出冊数が有意に多いことが分かった。

以上のように,入館回数と貸出冊数から見た図書館の利用量は,読書・学習タイプと平均的タイプの利用が特に多いことが分かった。学生生活において読書や学習に多くの時間を費やす読書・学習タイプだけではなく,平均的タイプも,読書・学習タイプと同等かそれ以上に大学図書館の利用頻度が高いことが分かった。

c. 入館および貸出頻度と学業成績の関係

以上のように,貸出と入館による大学図書館の利用頻度を確認したところ,二つの学生生活タイプがよく大学図書館を利用していた。読書・学習タイプと平均的タイプである。しかしながら,読書・学習タイプが優良な学業成績を自認している一方で,平均的タイプは優れた学業成績を自認している様子は見られない。つまり,大学図書館の利用と学業成績の関係を学生生活タイプごとに見た場合,大学図書館の利用の多寡と成績の優劣は必ずしも一致するとは限らないと言える。既往研究10)では貸出や入館などで測ることのできる大学図書館の利用量とGPAには正の相関が認められていた。しかし,これを例えば本研究のように学生生活という第3の要因を加えて検討すると,貸出と入館によって捉えられる大学図書館の利用と学習成果は常に一定の関連性を保持しているのではなく,そこにはある種の「ムラ」が存在することが分かった。

この結果から,少なくとも入館と貸出頻度と成績との直接的な結びつきについては疑わしいと考えることもできる。もしこれらに直接的な関連,もっと言えば因果関係があるならば,平均的タイプはもう少し優秀な成績を自覚しているはずだろう。大学図書館の利用と学習成果の間には,学生生活などの第3の要因が介在しており,それが学習成果に変化を生じさせていると考えられる。

2. 大学図書館の利用成果

第III章C節で,大学図書館の利用を通して得た成果を「一般的学力」「アカデミック学力」「学ぶ力」の三つに分類した。これらの利用成果について,各学生生活タイプがどのように認識しているかを確認する。分析にあたって,利用成果を次のように得点化した。質問紙調査の問7で大学図書館の利用を通してどれくらいの成果を得たと思うかを尋ね,5件法で回答を求めた。回答の「まったく得られていない」を1点,「あまり得られていない」を2点,「少しは得られた」を3点,「ある程度得られた」を4点,「大いに得られた」を5点とし,各学生生活タイプの平均点を求めた。第5図は,各学生生活タイプの三つの図書館利用成果の平均点を示したものである。

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第5図 学生生活タイプごとの大学図書館利用の成果(学力)

それぞれの平均得点を確認すると,読書・学習タイプがどの利用成果でも最も高い平均点を示している。しかし,全体的に平均得点の差は小さい。また,いずれの学生生活タイプも「アカデミック学力」の獲得を最も高く評価しており,その次には「学ぶ力」,最後に僅かな差で「一般的学力」と続くように,グラフの波形はいずれの学生生活タイプも似通っている。このことから,大学図書館の利用によって得られたと自認,あるいは得られると期待している利用成果には学生生活タイプによる違いは少ないことが分かった。

次に,こうした利用成果がどういった大学図書館利用パターンと関わっているかを確認するために,各学生生活タイプの大学図書館利用パターンと大学図書館利用成果の相関係数を求めた。その結果,大学図書館の利用成果には「従来型」がより強い関わりがあることが分かった。第9表は各大学図書館利用パターンと大学図書館利用成果の相関係数である。

第9表 大学図書館利用パターンと大学図書館利用成果の相関
読書・学習T交友T電子メディア消費T
コモンズ型従来型コモンズ型従来型コモンズ型従来型
一般的学力0.542**0.714**0.433**0.663**0.479**0.564**
アカデミック学力0.2960.3640.256**0.568**0.2410.509**
学ぶ力0.661**0.749**0.419**0.591**0.2970.604**
非活動的T平均的T
コモンズ型従来型コモンズ型従来型
一般的学力0.431**0.546**0.389**0.673**
アカデミック学力0.408**0.474**0.274**0.585**
学ぶ力0.411**0.360**0.432**0.635**
*p.<0.05, **p.<0.01

いずれの利用成果もコモンズ型よりも従来型との相関の方が強い。唯一の例外は非活動的タイプの学ぶ力において,従来型よりもコモンズ型との相関がやや強くなっている点である。従来型との相関においては,どの利用成果も中程度の相関関係があるとみなすことができる。一方のコモンズ型との関係ではいずれも弱い相関から中程度の相関関係とみることができるが,アカデミック学力との関係が最も弱い傾向がある。

大学図書館の利用で得られる3種類の利用成果(学力)についてはどの学生生活タイプも似通った捉え方をしていることが分かった。そしてこれらの利用成果は,いずれの学生生活タイプでも主に従来型の利用との相関が認められる。学生が,大学図書館の利用から直接的に得た,あるいは得られると期待している利用成果には,学生生活によって大きな差は認められなかった。

C. 結果のまとめ

本研究の結果,学生生活によって異なる大学図書館利用パターンが形成されていることが明らかになった。大学図書館利用パターンには学生生活との連動性も認められる。例えば読書・学習タイプは普段から読書や学習に多くの時間を費やしており,大学図書館の利用志向もコモンズ型,従来型に関わらず高いことや,交友関係に時間を費やす交友タイプは大学図書館の利用も友人との交流を含むコモンズ型の利用志向性のみが高い,などの現象が見られる。

図書館の利用と学習成果については,学生生活タイプごとの貸出や入館の頻度と学業成績の関係は必ずしも一律のものとはなっていない。本研究における学生生活タイプのなかで明らかに貸出と入館が多いのは平均的タイプと読書・学習タイプである。しかし学業成績を見ると,他に比べて優良な成績を得ていると自己評価しているのは読書・学習タイプのみであり,それに続くのは電子メディア消費タイプである。貸出や入館頻度と学習成果の結びつきの強さには,学生生活タイプによる違いがある可能性が示された。

その一方で,大学図書館の利用でどのような学力が身についたと考えているかについては,学生生活タイプによる違いは見られなかった。読書・学習タイプが最も高い利用成果を認めているものの,どの学生生活タイプも似通った利用成果を認めている。この結果から,大学図書館の利用成果の認識は学生生活タイプが異なっても同様であることが分かった。ただし,大学図書館利用パターンとの相関については,非活動的タイプにおいて従来型よりも,コモンズ型と学ぶ力の相関が高いという例外も見られる。

V. 考察

A. 学生生活と大学図書館

上で述べたように本研究の調査結果からは,大学図書館での貸出や入館頻度と学業成績に直接的かつ安定した関係を求めることは難しく,学生生活の違いなどによってある種の「ムラ」が生じるものと考えられる。その一方で,大学図書館の利用で得たと学生自身が考える利用成果の認識には学生生活タイプによる違いは見られず,ほぼ一律の利用成果を自認していた。

仮に学業成績で表される学習成果を最終的なアウトプットとした場合,大学図書館の利用成果として学生が自認している学力は中間的なアウトプットと言えるだろう。大学図書館の利用から直接的に得られる成果である3種類の学力と学生生活の関係は安定的と言えるが,そこから最終的に学業成績として表される学習成果に結びつく部分では,学生生活と大学図書館の相互作用が介在し,学業成績という結果には「歪み」が生じるのではないかと考えることができる。

こうした歪みはなぜ生じるのか。最後に,学生生活の諸活動の中でもとりわけ大学図書館の利用や学習成果に関わると思われる読書や学習について,各学生生活タイプの状況を確認することで,この点に若干の考察を加えたい。第10表は,各学生生活タイプの一週間での勉強と,マンガ等を含む読書時間をクロス集計した結果である。質問では「1時間未満」から「20時間以上」の6件法で回答を求めているが,ここでは解釈しやすくするため結果を単純化し「10時間未満」と「10時間以上」にまとめた。

第10表 各学生生活タイプの1週間での勉強と読書時間
勉強(課題関係)合計勉強(自主的)合計
10 h.未満10 h.以上10 h.未満10 h.以上
読書・学習T21(84%)4(16%)2518(72%)7(28%)25
交友T86(84%)16(16%)102102(100%)0(0%)102
電子メディア消費T36(92%)3(8%)3936(92%)3(8%)39
非活動的T95(89%)12(11%)107107(100%)0(0%)107
平均的T118(85%)21(15%)139132(95%)7(5%)139
読書合計マンガ・雑誌合計
10 h.未満10 h.以上10 h.未満10 h.以上
読書・学習T12(48%)13(52%)2520(80%)5(20%)25
交友T102(100%)0(0%)102101(99%)1(1%)102
電子メディア消費T39(100%)0(0%)3938(97%)1(3%)39
非活動的T107(100%)0(0%)107107(100%)0(0%)107
平均的T139(100%)0(0%)139136(98%)3(2%)139
N=412, 単位(人)

授業での課題に関する勉強時間はいずれの学生生活タイプも似通った分布を示している。ところが自主的な勉強,ならびに読書を10時間以上行った学生の割合は読書・学習タイプが明らかに高く,明確な差が生じている。

読書・学習タイプの学生が学生生活でも自主的な学習や読書を行っている一方で,平均的タイプにはそのような面は見られない。こうした学生生活の違いが,大学図書館の利用頻度(貸出と入館)が同等であっても学業成績の自己評価の違いに繋がっていると考えることができる。だとすると,そもそも大学図書館と学習成果は無関係なのではないかという推論も成り立つ。本研究のモデルでは,それを学生生活から学習成果に直接至る矢印で記した。しかし,両者の学生生活の違いは大学図書館利用パターンにも現れている。もし,両者の大学図書館利用パターンも類似しているのであれば,大学図書館は学業成績と無関係であると言い切ることができる。しかし,両者の大学図書館利用パターンは異なるものであり,それぞれの学生生活タイプの大学図書館との関わりは,例えば以下のような解釈が可能である。

読書・学習タイプは従来型とコモンズ型の両方の大学図書館利用志向性が高く,学生生活全般で大学図書館が意識されていることが読み取れる。そのため,授業課題などはもちろん,自主的な学習や読書においても大学図書館が活用され,彼(彼女)らの学生生活が形成されていると解釈できる。一方で,従来型に偏った利用志向性を示している平均的タイプは資料の利用や学習場所としては大学図書館を認識しているものの,それ以外では大学図書館を意識した学生生活を送っているわけではないことが読み取れる。そのため,大学図書館は課題等で必要なときには良く利用するものの,それ以外の学生生活では大学図書館が利用される場面が少ないと推測できる。結果的に,こうした両者の大学図書館との関わりの違いが,貸出や入館頻度で見たときの大学図書館の利用が学業成績へもたらす「効果」の違いという現象に繋がっている可能性を指摘できる。

大学図書館利用パターンは,学生生活と大学図書館の相互作用の表出と見なすことができ,学習成果としての学業成績には,こうした学生生活と大学図書館の相互作用が関わっていると考えることができる。このことから,大学図書館の利用による学習成果は,貸出や入館などの利用量の単純な関数ではなく,学生生活という変数の関わりによって揺らぎを生じるものであると考えられる。

B. 結論

1. 学習環境としての大学図書館の現在

以上のように,本研究では学生生活と連動した大学図書館利用パターンの存在が明らかになった。そして大学図書館と学習成果の関係は安定的なものではなく,学生生活と大学図書館の利用との相互作用によって振幅が生じることを指摘した。このことから,大学図書館が学生の学習,または大学の教育成果に貢献するためには,学生生活を考慮した施策が必要であると言える。つまり,大学図書館は貸出や入館などの数字の増減に一喜一憂するのではなく,個々の大学が課題として捉えていることや大学の教育目標に照らし,その実現のために望ましい学生生活を送れるように学生を導くための支援が求められると言える。

こうした支援の在り方として既に一般的になったものの一例としてラーニングコモンズが挙げられるだろう。第I章で述べたように,大学図書館は学習に関与することが求められるようになった結果,2000年代以降にラーニングコモンズが注目を集め,これに類する空間を設置する大学数は2017年時点で512を数えるようになった31)。ラーニングコモンズの空間イメージが「審議のまとめ(2013年)」では次のように述べられている。

少人数から多人数,グループ学習や成果発表など多様な学習活動に対応可能なスペースを用意することが期待されるが,いずれのスペースにおいても,開放性,透明性の高い空間とすることが重要である。「見る」「見られる」という空間の中で,熱心に学習している姿が他の学生の学習意欲を刺激し,周辺への指導・教育効果の発現が期待できる4)。[p. 6]

この記述から,ラーニングコモンズの設置は学生の主体的な学びを促し,学生の学習意欲喚起を狙いとするものであったことが読み取れる。本論の読書・学習タイプの学生は,自主的な学習や読書を他の学生よりも多く行っているばかりではなく,その大学図書館利用パターンは従来型とコモンズ型のいずれも際立って高く,ここで述べられているような学習空間と親和性が高い印象がある。本研究では,こうした学生が,学生生活タイプの学生に比べて好成績を自認していることが明らかになった。このことから,今日の大学図書館という学習環境に最も「適応」しているのは,読書・学習タイプのような学生群であり,大学図書館はこうした学生に対して最も効果的に機能していると言える。

以上のように考えると,ラーニングコモンズの設置は狙い通りの効果を上げていると考えることができる。しかしながら,本研究における全サンプルに占める読書・学習タイプの割合からうかがえるように,自主的な学習や読書をよく行っている学生の人数は極めて限定的であると思われる。そのことから,その効果も限定的なものと言わざるを得ない。つまり,ラーニングコモンズやその類似施設を備えるなどして「コモンズ型」の利用が一般的にみられるようになった近年の大学図書館の変化は,結果的には,自主的な学習や読書をよく行う学生にとって最適化した学習環境へ大学図書館を作り替えることになっている,と言うことができる。

2. 大学図書館のターゲット設定と学生へのアプローチ

もちろん,自主的に学ぶことのできる一部の学生をターゲットに,その育成に注力するという大学もあってよいだろう。しかしながら,平均的タイプについては熟慮すべき点がある。この学生群は本研究でサンプル数が最多であることからも,一般的な学生像に最も近いと思われる学生群である。その大学図書館利用パターンを見ると,従来型の利用が優勢である。つまり,多くの学生は近年の大学図書館の変化にも関わらず,旧来の大学図書館の利用法を続けていると解釈できる。平均的タイプは大学図書館をよく使うにも関わらず,必ずしも高い学習成果を上げているわけではないことも思い出す必要がある。

本研究では,大学図書館の利用パターンは学生生活の送り方と関連しながら形成されていることが明らかになった。そして,そのことが大学図書館と学習成果の関係に揺らぎを生じさせている可能性を指摘した。本研究の調査結果ではそれ以上の詳しい分析はかなわなかったが,この揺らぎは学習成果の大小だけではなく,その性質とも関わっている可能性もある。例えば非活動的タイプは,大学図書館の利用により得たと考える成果の「学ぶ力」において,従来型よりもコモンズ型の利用の方が強い相関を示した。コモンズ型が従来型を上回る相関を示していたのはこれが唯一の例である。学生の大学図書館との関わり方とそこに結びつく利用成果や学習成果は,効果の大小だけではなく,性質もまた一定のものではない可能性を示唆している。従って,大学図書館の学習成果を最大化するためには,まずは在学する学生の特徴を把握することが必要である。学生を望ましい学生生活に導く一方で,学生と大学図書館がどのような関係を取り結んでいるかを見定め,時には大学図書館から学生生活に寄り添う支援が課題の解決に有効であるケースも十分に考えられる。ラーニングコモンズやその類似施設が広まったことで,グループ学習や学生同士の語らいなどによって新たな学習コミュニティが形成されるなど,学習形態にも変化が生じている可能性が考えられる。それぞれの学生生活タイプの学習実態についても把握したうえで,各大学および大学図書館による適切なターゲティングと,ある種のマーケティング戦略に沿った施策の立案と実行,また広報戦略を含めた学生へのアプローチが望まれる。

謝辞Acknowledgments

本論文は,慶應義塾大学大学院文学研究科図書館・情報学専攻情報資源管理分野2016年度修士論文を基に,加筆修正を行ったものです。執筆にあたってご指導いただいた慶應義塾大学名誉教授の糸賀雅児先生へ感謝の意を表します。

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