Library and Information Science

Library and Information Science ISSN: 2435-8495
三田図書館・情報学会 Mita Society for Library and Information Science
〒108‒8345 東京都港区三田2‒15‒45 慶應義塾大学文学部図書館・情報学専攻内 c/o Keio University, 2-15-45 Mita, Minato-ku, Tokyo 108-8345, Japan
https://mslis.jp/ E-mail:mita-slis@ml.keio.jp
Library and Information Science 86: 1-18 (2021)
doi:10.46895/lis.86.1

原著論文Original Article

所有とアクセスからみた情報メディアの利用Information Media Use: Ownership and Access

1慶應義塾大学大学院Graduate School of Letters, Keio University ◇ 〒108–8345 東京都港区三田2–15–45 ◇ 2–15–45 Mita, Minato-ku, Tokyo 108–8345, Japan

2慶應義塾大学Keio University

3九州大学Kyushu University

受付日:2021年4月23日Received: April 23, 2021
受理日:2021年10月2日Accepted: October 2, 2021
発行日:2021年12月30日Published: December 30, 2021
HTMLPDFEPUB3

目的】情報メディアは,従来所有して利用することが一般的であった。しかし近年,経済活動における多様なサービスの展開,デジタル環境が進む中,アクセスをベースとする利用行動が広まってきている。本研究では,小説,教養書や専門書,漫画,音楽という4種類の情報メディアに関して,先行研究における包括的所有概念の機能構成が断片化するという考え方に基づき,各情報メディアの購入,借出,サブスクリプションといった利用行動を「所有」「準所有」「アクセス1」「アクセス2」「アクセス3」の5類型に整理した上で,現在どの利用が中心になされているのかを明らかにし,利用傾向によって回答者を類型化し,各グループを特徴づけることを目的とする。

方法】日本国内の1,030名(男女,年齢均等割付)を対象にオンラインパネル調査を実施した。設問は情報メディアの利用に関する30項目,情報メディアの志向に関する5項目,情報メディアの利用頻度に関する3項目,機器の所持と利用に関する2項目,性格特性に関する10項目である。情報メディアの利用に関する30項目の回答結果に基づいた階層的クラスタリングによって得られた樹形図に基づき,7クラスタを同定した。

結果】情報メディアの利用に関する質問30項目のうち27項目で,「全くしない/知らない/わからない」という回答が50%以上を占めていた。一方,YouTubeなどの無料動画サイトでの音楽鑑賞を「非常によくする/よくする」と回答した者は41.9%だった。各メディアの利用状況に基づき,情報メディアの利用の少ない5クラスタに対して,それぞれ「YouTubeのみ利用」「非利用」「図書館利用」「音楽利用(定額)」「所有」と名付けた。情報メディアの利用の多い2クラスタに対して,「全メディア積極利用」「積極利用(アクセス3重視)」と名付けた。これらのクラスタに関して,情報メディアの利用頻度,性格傾向などの特徴を整理した。

Purpose: Information behavior has changed in recent years following the increase in economic activities based on access. Five types of information media use were categorized based on a previous study of ownership: ownership, quasi-ownership, and access types 1, 2, and 3. To clarify the current trends in media use, we conducted a survey of the current uses of four types of media: novels, nonfiction books, comics, and music. The respondents were categorized based on their information media use.

Methods: An online panel survey was conducted in Japan with 1,030 participants who were counterbalanced by gender and age. The questions consist of 30 items related to media use, 5 related to physical media orientation, 3 related to frequency of media use, 2 related to possession and use of computer devices, and 10 related to personality.

Results: Of the 30 questions on media use, more than half of the respondents answered “never/don’t know/no idea” to 27 questions. However, 41.9% of the respondents answered that they “very often/often” listen to music on free online video-sharing platforms such as YouTube. Seven clusters were identified based on hierarchical clustering from the answers for media use. The five clusters that indicated less use of information media were: “only YouTube,” “nonuser,” “library user,” “music subscription user,” and “ownership.” The two respondent clusters that used information media frequently were: “active user of all media” and “active user (mainly access type 3).” The characteristics of the clusters were discussed.

I. 情報メディアの利用における所有とアクセス

A. 所有とアクセス

情報は物の使用とは異なり,一人が利用していても,そのことによって他の人が利用を妨げられるものではないし,利用したからといって消失するものではない。しかし,この無形である情報を他の人に伝達し利用できるようにするためには,従来有形の媒体が必要とされてきた。小説が流通するには紙の印刷物という媒体が必要であったし,音楽はレコードやCDを必要とした。それら有形の媒体を必要とする情報メディアの利用は,車やソフトウェアなどと同様に,利用する際には所有することが一般的な手段であった。しかし物の消費行動において最近,所有することなく利用できる多様なサービスが展開されるようになってきた。たとえば車を購入することなく1日だけレンタカーを利用することや,保険や税金を含めて月々定額を支払うことで1~数年間車を利用できるカーリースやサブスクリプションという方法も注目されている1)。さらに社会のあらゆる側面でデジタル化が急速に進む中で,デジタルなサービスにおける所有とはどういうことなのか,どのような場合に所有しているという感覚を得るのかというデジタルの所有権や人々の所有感に関する議論がマーケティングの分野を中心になされるようになってきている。経済活動,消費行動の中心であった所有という活動が,使用権の契約というアクセスをベースとする活動へと変化してきている。

第1表 所有とアクセスの機能からみた利用類型
物の所有デジタルファイル(DRMフリー)の購入デジタルファイル(DRM対応)の購入サブスクリプション図書館からの借出物のレンタルデジタルのレンタル無料デジタル
例示印刷図書,CDの購入MP3 ダウンロード (iTunes)Kindle e-bookAmazon music Unlimited図書館:本の借出図書館:電子書籍の借出図書館:CDの借出CDレンタル(ツタヤ)電子の漫画レンタル(レンタ)無料電子書籍YouTube
使用する権利無制限無制限制限制限制限制限制限制限制限無制限制限
変更する権利無制限無制限制限不可不可不可不可不可不可無制限不可
譲渡可能性無制限制限制限不可不可不可不可不可不可制限不可
継続性永続永続不確定一時的一時的一時的一時的一時的一時的永続不確定
管理する権利無制限無制限制限不可不可不可不可不可不可無制限不可
利用の類型所有準所有アクセス1アクセス2アクセス2アクセス2アクセス2アクセス2アクセス2準所有アクセス3

Watkinsは,このような変化を単純な所有とアクセスの二分法ではなく,従来の永続的,独占的な使用や売却,贈与,破壊する権利などを包括する権利であった所有概念が,特定の権利や機能へ分割,断片化された結果と見なすべきだと主張している2)。そして,物の所有と比較して,デジタルのさまざまな活動が従来の所有のどの権利に対応しているかを論じた。ZhuはこのWatkinsの考えを,デジタルの情報メディアサービス(電子書籍のKindleストア,ドラマや映画のNetflixなど)に当てはめ,6種類の「所有形態」を提案し3),そのうち米国と中国の大学生がどこまでを所有と見なすかを調査している4)

本研究では,情報メディアの利用において,物の所有からアクセスへと行動が変化しているのかどうかに着目する。情報メディアとは,情報の伝達,コミュニケーションを媒介する技術だけを指すのではなく,そのメディアに特徴的な表現形式や秩序化の規範,伝達させるための社会的なシステムの総体である。つまり,個々の作品の内容(コンテンツ)を超えて,特定の社会に構築されている共通の社会システムが情報メディアである。ここでは,本と音楽を研究対象とする。いずれも従来は有形の物に固定され,所有されることで利用されてきたが,同じ内容のコンテンツがデジタルでも流通し,多様なサービスが展開され始めている。同じ本であっても,利用目的や表現形式,さらには所有やアクセスなどの利用形態が異なるため,小説,教養書・専門書,漫画は別の情報メディアとする。

これら4種類の情報メディアの利用形態を,WatkinsとZhuの研究における所有概念がどのような権利から構成されているかという観点を使って,物の所有からデジタルファイルへのアクセスまでに整理した(第1表)。所有概念を構成する権利として,WatkinsとZhuが共通して取り上げていた4機能とZhuだけが取り上げていた1機能の5機能から見ている。最初の機能は,使用する権利(right to use)であり,使用する形式や方法,さらにデバイスも自由に選択できるのかが含まれている。次が変更する権利(right to transform)で,編集,再利用できることを指す。譲渡する権利(transferability)は交換,贈与,売却する権利である。継続性(continuity)とは利用が半永久的に継続されるか否かである。最後にZhuだけが明示していた管理する権利(right to manage)は,複製,フォーマット変換をする権利である。それぞれの利用形態において制約があるかどうかを,無制限,制限,不可の3つの選択肢から選んだ。ただしこの場合の無制限とは著作権法の規定の範囲内という意味である。

物を購入して所有した場合,基本的にその物をどのような形で利用することも自由で,変形させることも,贈与したり売却したりすることもできる。しかし,デジタルファイルを購入する場合,サービスの種類によって,何をどこまでできるのかには違いがある。音楽をMP3ファイルのダウンロードで入手した場合,それをどのデバイスで聞くことも,著作権法で認められる範囲であれば編集も再利用も可能になる。しかし,そのファイルを売ることはできない。電子書籍の場合,購入してもその電子書籍ファイルへの永続的な利用が保証されているわけではない。たとえばAmazonが電子書籍サービスをやめた場合,Kindleストアで購入した本は読めなくなる契約となっている。あくまでもそのサービスでの利用の権利を購入しただけである。他者に貸したり売ったりすることもできない。音楽や漫画のサブスクリプションサービス,図書館からの借出,レンタルサービス,無料デジタルサービスについても,同様に所有に関わる5つの機能についてどれだけ制約があるかという点で分類した結果,利用の類型は①所有,②準所有,③アクセス1,④アクセス2,⑤アクセス3に分けられると考えた。

①所有は著作権法で認められる範囲内であれば5つの所有に関わる機能すべてに制約がない場合で,これは物の所有,つまり印刷本やCDの購入にしか当てはまらない。②準所有は使用,変更,管理を著作権法で認められる範囲内で無制限に行うことができ,永続的な利用が保証される。ただし他者への売却を行うことができない。これはデジタル著作権管理(DRM)のないデジタルファイルの購入,無料電子書籍サービスでのファイルの入手が当てはまる。③アクセス1は使用,変更,管理,譲渡が提供者によって制限されており,利用の継続性は提供者がサービスを中止すると利用ができなくなるため不確定とした。Kindleストアでの電子書籍の購入が当てはまる。④アクセス2はアクセス1と同様に使用する権利が制限されている上に,変更,管理,譲渡が明確に禁止されている。さらに利用期間が明確に限定されるため,利用の継続性は一時的である。図書館からの借出,サブスクリプションサービス,デジタル漫画のレンタルが当てはまる。⑤アクセス3は使用する権利が制限され,変更,管理,譲渡に関しては全て禁止されているのはアクセス2と同じであるが,利用の継続性に明確な規定がなく,一時的とはいえず不確定という点が異なっている。YouTubeが当てはまる。

Watkins等の研究をはじめとしてマーケティング分野の研究では,所有という概念そのものの検討,もしくは人々がどのような所有感,心理的所有の認識を持つのかという点に焦点があり,実際に情報メディアをどう利用しているかの研究はほとんどない。本研究では,情報メディアの利用を所有とアクセスという観点から整理したこの類型に基づいて,現在の日本において情報メディアの利用がどのようになされているのかを,小説,教養書・専門書,漫画,音楽に関して明らかにすることを目的とする。

B. 情報メディアの利用の現状に関する先行研究

1. 情報メディアに関連する所有とアクセスの研究

複数の情報メディアの利用に関し,所有とアクセスに関連させてその利用行動の特徴を大規模に調査した研究は見つけられなかった。以下で取り上げるのは,小説,教養書・専門書,音楽に関して,所有感(心理的所有,所有に対する認識)がそれらへの好み,意識,認識にどう影響したかという研究である。

A節で取り上げたZhuらの研究では,教育研究用の本,娯楽用の本,音楽,映像の4種類の情報メディアの利用に関して,入手方法(購入/レンタル/借用/サブスクリプション),入手形式(デジタル/物理媒体),入手経路(オンライン/実店舗/図書館/家族や友人)に関する好みを,米国の22~75歳の304名を対象に質問紙調査を実施した。その結果,教育研究用の本と娯楽目的の本は物理的に購入することを好む回答者が,それぞれ40.1%,47.7%であったが,音楽に関してはデジタルでの購入を好む回答者が38.5%,サブスクリプションサービスが34.9%であった。また,彼女らは大学生323人に対しても同様の調査を行っており,娯楽目的の本では64.1%が物理的な購入を好み,音楽に関してはサブスクリプションを好む人が44.6%,デジタルでの購入が35.9%であった。Zhuらの主たる関心は所有とアクセスのどちらを好むかという利用者の意識の違いにあり,実際にどのように利用しているのかという行動に関しては調査されていない5)

Atasoyらはフィクション,ノンフィクション,記念写真,映画に関して,物理的な物(goods)の方が,デジタルな物よりも,より高い支払意思額を示すこと,それには心理的所有感が影響していることを5種類の実験から明らかにしている。たとえば,フィクション(『ハリー・ポッターと賢者の石』)の印刷版とKindle版への支払意思額では印刷版の方が高かった。製品の永続性を重視する認識とは関係がなかったが,心理的所有感の強さに影響されていた。さらに大学生を対象として印刷版とデジタル版の教科書の,購入とレンタルに関して,その支払意思額を尋ねた。コース終了後に売ることはできない,レンタル期間は180日という条件で行ったが,印刷版の購入が最も高額で,印刷版のレンタル,デジタル版のレンタル,デジタル版の購入という順であった。この実験では直接には心理的所有感は尋ねられていない。Astoyの研究においても,焦点となっているのは人々の支払意思額が物理的な形式では高くなることに,人々の心理的所有感がどう影響しているのかをモデル化することであった6)

Helmらは,本に関してデジタル版の利用可能性が本の所有権に対する認識をどう変化させたかを明らかにするために,世代別に4組合計31名へのフォーカスグループインタビューを実施した。結果として,電子書籍を購入しても印刷版のように他人と共有したり贈り物としたりすることができず,また他のデバイスに渡せないといった使用上の制約が,電子書籍の利用を妨げていることが明らかになった。一方で,図書館からの借出やデジタルでのアクセスを好む意見もあったほか,デジタルでの利用を好むかどうかに世代の影響は見られなかったとしている7)

Sinclairらは,音楽のストリーミングサービスがどのように利用されており,そこに心理的所有感がどう関係するかを明らかにするため,オンラインのディスカッションフォーラムと個別インタビューを実施した。彼らは容易なアクセス,検索および整理のしやすさといった機能の利便性が利用する要因となっており,さらに日常生活の中に音楽の消費が組み込まれていると述べている。一方でCDやレコードのコレクションは,自分の音楽に関する知識や情熱,アーティストへの愛着を表現するものだった8)

2. 情報メディアの利用状況

小説,教養書・専門書,漫画,音楽に対する所有とアクセスを扱う際の前提となるそれぞれのメディアの利用や享受の状況を,国内の既往調査をもとに概観する。

a. 小説,教養書・専門書,漫画

小説,教養書・専門書,漫画については,個別に調べられるよりもまとめて読書という括りで数多く調査されてきた。ここでは,成人を対象とした最近の大規模調査である文化庁「国語に関する世論調査 平成30年度」,および国立国会図書館「図書館利用者の情報行動の傾向及び図書館に関する意識調査 令和元年度」から関連する事項を取り上げる。

文化庁調査では,5年おきに読書についての質問を行ってきた。2019年には,1,960人を対象とした面接調査が行われ,1か月に1冊以上読むと答えた回答者は52.6%で,10年間で微減している。「ふだん電子書籍を利用しているか」という質問に,「利用する」と答えた回答者は25.2%で,5年前の17.3%から大きく増えている9)

国立国会図書館が2019年に実施したオンライン調査は,5,000人から回答を得ている。なお,調査名とは異なり,調査対象は図書館を利用していない人も含めている。公開されている調査結果データを新たに集計した結果を以下に示す。回答時点までの1年間で印刷版の小説を1冊以上読んだという回答者は46.8%,20代から50代までほぼ一定で,小説以外の印刷版の本は45.6%であるが,20代では低く,年代が上がれば割合も高まる傾向にある。一方,印刷版の漫画を1年間で1冊以上読んだという回答者は,28.9%であるが,20代と30代では45%近くになっている。また,電子版では,小説と小説以外はいずれも12.1%だったが,電子版の漫画は16.1%であり,特に20代では33.2%がこの1年間に電子版漫画を1冊以上読んでいた。電子版は,いずれも年齢が高まるほど読んでいないという回答が増える10)

また同調査によると,印刷版の本の普段の入手方法について,回答者2,861人による上位3位までの回答(複数回答可)は,新刊書店の店頭での購入(67.4%),オンライン書店での新刊購入(39.1%),図書館で借りる(36.6%)だった10)

電子出版制作・流通協議会は電子図書館サービス(電子書籍貸出サービス)の導入状況を調査しているが,2021年1月1日の時点で,このサービスを143自治体が導入していた。これは,1,724自治体(調査時点)の8.3%に過ぎない11)

b. 音楽

日本レコード協会は音楽利用者の動向に関するオンライン調査「音楽メディアユーザー実態調査」を実施している。2019年に行われた調査では3,174人の回答者があり,半年間におけるCD購入や音楽配信利用など有料聴取を行った割合は38.6%,友人や知人から借りたCDのコピーやYouTubeなどの無料聴取が30.2%,無関心が31.3%だった。高校生,大学生,20代では有料聴取の割合が5割を超える一方,60代では無関心が42.1%だった。音楽聴取方法で最も多いのはYouTubeの54.9%,次いでテレビの46.9%,音楽CDの41.8%が続いている。また,定額制音楽配信サービスは26.1%,無料音楽アプリは14.9%であり,これらは前年度より大きく増加した。YouTubeの利用は20代では60%以上であるのに対して,60代では41.1%に留まっていた12)

C. 研究目的

経済活動におけるサービスの多様化とデジタル環境の進展によって,これまで所有する形式が中心であった情報メディアの利用が,アクセスをベースとする利用へと変化していることが示唆されている。マーケティング分野を中心とする先行研究では,この所有概念の変化を人々がどう認識しているか,つまりどのような状況であれば所有していると認識するかという所有感,もしくは心理的所有という観点が研究の焦点となっており,実際に人々が多様なサービスをどのように利用しているのかについての大規模な研究は見られない。

本研究では,小説,教養書・専門書,漫画,音楽を対象に,所有からアクセスへの利用行動に焦点を当てる。A節で述べたように所有とアクセスは対立する概念ではない。物の所有とはその物の使用,変更,譲渡などを自由に行える包括的な権利であり,現在提供されているKindleストアの電子書籍サービス,音楽のサブスクリプションサービスなどは,物の所有で認められてきた権利の一部が制約されたものとなっている。A節と第1表では小説,教養書・専門書,漫画,音楽を対象に,どの権利が制約されているのかを基準として,所有からアクセスへの5類型を整理した。この5類型が,どの程度利用されているのかを調査し,回答者を情報メディアの利用特性に基づいて類型化し,各グループにどのような特徴があるのかを,利用傾向,年齢,性格の要因から明らかにする。

II. 研究方法

成人である20代から60代の国内の男女1,030名(年齢と性別の均等割付)を対象とし,オンラインパネル調査を委託により実施した。調査期間は2020年9月11日から12日である。性別,年齢などの調査対象者の属性データは調査委託先から取得した。

質問紙調査の設問は,情報メディアの利用に関する30項目,物理的な情報メディアへの志向に関する5項目,情報メディアの利用頻度に関する3項目,機器の所持と利用に関する2項目,ビッグファイブ性格特性に関する10項目からなる。以下,各設問の詳細を述べる。

情報メディアとして,小説,教養書や専門書,漫画,音楽の4種を対象とした。情報メディアの利用に関する設問は,情報メディアごとに,前章で述べた所有とアクセスに関する5つの利用類型(所有,準所有,アクセス1(AC1),アクセス2(AC2),アクセス3(AC3))の枠組みに基づき,2018年のZhuらの情報メディアの入手方法,入手形式,入手経路も参考にした3)。たとえば,所有として印刷版の本の購入,準所有として音楽ファイルのダウンロード購入,アクセス1として電子書籍の購入,アクセス2として図書館や知人からの借出やサブスクリプションサービスの利用,アクセス3として無料動画サイトの利用などの設問がある。各設問がどの分類に該当するかを第2表に示した。なお,設問中の有料読み放題サービスや無料サービスなど,回答者にとって該当するサービスがわかりにくいと考えられる用語には具体例も示した。選択肢は「非常によくする」,「よくする」,「時々する」,「あまりしない」,「全くしない/知らない/わからない」の5件法を用いた。

情報メディアの利用に影響する可能性のある外部要因として,物理的な情報メディアへの志向や利用頻度,機器の所有と利用,性格特性について尋ねた。物理的な情報メディアへの志向に関しては,本やCDのコレクション志向,新品を好むこと,他者への貸出や譲渡,本やCDの入手による満足感の有無について,「はい」と「いいえ」の二択で尋ねた。利用頻度は,漫画以外の本,漫画,音楽の各情報メディアについて「毎日」から「全くない」の5件法で尋ねた。機器の所有と利用では,スマートフォン,タブレット,ノートパソコン,デスクトップパソコンの中から,複数回答可で,自由に使える機器と毎日よく使う機器を尋ねた。

回答者の性格特性を測るために,心理学分野でよく用いられているビッグファイブ性格特性を用いた。これは,個人の行動や思考を5つの特性(traits)によって説明する理論であり,これまで数多くの研究が蓄積されてきている。外向性(extraversion),協調性(agreeableness),勤勉性(conscientiousness),神経症傾向(neuroticism),開放性(openness to experience)の5つの因子を測定するために,多くの質問項目を用意するが,今回は10項目で測定する短縮版の日本語版Ten Item Personality Inventory(TIPI-J)を用いた13)。外向性は積極的に刺激を求め,人付き合いを好む傾向で積極性や社交性を意味する。協調性は集団に対する一体性を持ち,他者を思いやる傾向で親切さや気前の良さを表す。勤勉性は真面目で誠実な傾向で計画性や意志力があることを表す。神経症傾向は感情的反応の予測と制御が不安定になりやすい傾向を表す。開放性は経験や知に対して関心を持つ傾向で知的好奇心や創造性を表す14)

III. 結果と考察

A. 情報メディアの利用傾向

第2表に情報メディアの利用に関する設問の回答を割合で示した。全設問30項目のうち,「紙の本の小説を購入する」「音楽CDを購入する」「音楽をYouTubeなどの無料の動画サイトで聴く」以外の27項目で,半数以上の者が「全くしない/知らない/わからない」と回答していた。全体として情報メディアの利用は消極的といえる。以下では,回答の選択肢のうち,「非常によくする」,「よくする」,「時々する」を「利用する」にまとめ,その割合が多い設問について傾向を述べる。

第2表 情報メディアの利用に関する質問項目における回答の割合(単位%)
番号質問項目5類型非常によくするよくする時々するあまりしない全くしない
1紙の本の小説を購入しますか所有4.07.023.331.734.0
2電子書籍の小説を購入しますかAC11.42.26.516.173.8
3紙の本の小説を図書館で借りますかAC25.44.913.322.254.2
4電子書籍の小説を図書館で借りますかAC20.40.91.68.388.8
5小説を家族や友人から借りますかAC21.23.111.720.463.7
6小説を有料読み放題サービス(サブスク)で読みますかAC20.71.52.66.888.4
7小説投稿サイトの小説を読みますか準所有2.02.65.99.080.4
8小説以外の教養書や専門書などの印刷版を購入しますか所有3.55.220.219.851.3
9小説以外の教養書や専門書などの電子版を購入しますかAC11.01.96.011.180.0
10小説以外の教養書や専門書などの印刷版を図書館で借りますかAC21.73.512.915.266.7
11小説以外の教養書や専門書などの電子版を図書館で借りますかAC20.61.43.47.387.4
12小説以外の教養書や専門書などを家族や友人から借りますかAC21.11.67.216.473.8
13小説以外の教養書や専門書などを有料読み放題サービス(サブスク)で読みますかAC20.51.72.66.888.3
14小説以外の教養書や専門書などを無料サービス(青空文庫など)で読みますか準所有1.11.55.09.782.8
15紙の漫画を購入しますか所有3.86.518.720.250.8
16電子書籍の漫画を購入しますかAC12.33.610.79.873.6
17紙の漫画を図書館で借りますかAC20.41.73.310.084.7
18紙の漫画をレンタルストア(TSUTAYAなど)で借りますかAC20.72.95.010.481.0
19電子書籍の漫画をレンタルサイトで借りますかAC20.81.92.57.187.7
20漫画を家族や友人から借りますかAC21.13.710.917.367.1
21漫画を漫画喫茶で読みますかAC21.11.99.817.270.0
22漫画を有料読み放題サービス(サブスク)で読みますかAC21.32.23.77.685.2
23音楽CDを購入しますか所有2.35.921.429.041.4
24音楽CDをレンタルストアで借りますかAC20.64.117.423.554.5
25音楽CDを図書館で借りますかAC20.51.15.410.882.2
26音楽CDを家族や友人から借りますかAC20.42.210.219.068.2
27音楽ファイルをダウンロード購入しますか準所有2.85.116.717.957.5
28図書館のサイト(ナクソスなど)を通じて音楽を聴きますかAC20.71.53.06.588.3
29音楽を有料聴き放題サービス(サブスク)で聴きますかAC26.54.55.07.876.3
30音楽をYouTubeなどの無料の動画サイトで聴きますかAC320.321.628.69.719.8

「利用する」者の割合が最も多い設問は「音楽をYouTubeなどの無料の動画サイトで聴く」で,70.5%(「非常によくする」20.3%,「よくする」21.6%,「時々する」28.6%)であった。次いで「紙の本の小説を購入する」が34.3%,「音楽CDを購入する」が29.6%であった。YouTubeなどの無料動画サイトを利用した音楽鑑賞は突出して多い。

情報メディアの種別でみると,小説,教養書や専門書は,いずれも印刷版の購入を「利用する」者の割合が最も多く,小説は34.3%,教養書や専門書は28.9%であった。小説と教養書や専門書において,次に多い利用方法は図書館からの印刷版の借出であり,小説は23.6%,教養書や専門書では18.1%であった。一方,小説,教養書や専門書の電子書籍や有料読み放題サービス(サブスクリプションサービス)などの電子的な利用に関する項目では,いずれも「全くしない/知らない/わからない」という回答がおよそ9割に達していた。小説と教養書や専門書においては,電子的な利用はほとんどなされず,印刷版による物理的な利用が主体であるといえる。

漫画においても「利用する」と回答した者の割合が最も多い利用方法は印刷版の購入(29.0%)であったが,次に多い利用方法は電子書籍の購入(16.6%)であった。漫画の電子的な利用は少ないが,小説,教養書や専門書と比較するとわずかに多いと言える。音楽については,YouTubeなどの無料動画サイトを「利用する」と回答した割合が70.5%と最も高く,次にCDの購入が29.6%,音楽ファイルのダウンロード購入が24.7%であった。CDの購入が,ダウンロードによる購入の割合を上回ってはいるものの,他の種別に比べて,無料動画サイトを筆頭に電子的な情報メディアを介した利用が進んでいた。

所有とアクセスの機能からみた利用類型ごとに利用傾向を明らかにするため,情報メディアの利用に関する30の設問に対する回答を「非常によくする」を5,「よくする」を4,「時々する」を3,「あまりしない」を2,「全くしない/知らない/わからない」を1として得点化し,設問の対応する類型と情報メディアの種別ごとに平均得点を算出した(第3表)。表中の斜線はそのサービスが存在しないことを示している。各設問に対応する類型は第2表に示してある。物理的な形式の購入である所有はすべての情報メディアに存在している類型であるが,他の類型に関しては情報メディアによって存在しないものがある。これは利用の権利がどこまで制約されるかという観点から類型化しているためで,同じ電子的形式の購入であっても,電子書籍の購入はアクセス1だが,音楽のMP3ファイルの購入は準所有になる。所有以外の利用に関しては,情報メディアごとにサービスの提供方法が異なっている。

小説,教養書と専門書,漫画では,いずれも所有の平均得点が最も高かった(2.15, 1.90, 1.92)が,音楽はアクセス3の平均得点(3.13)が最も高かった。ただし,音楽にアクセス1は存在せず,アクセス2は最も平均得点が低く,アクセス3という類型は音楽にしか存在していない。ここからは単純に所有からアクセスへ移行しているとはいえないが,音楽においてのみ,YouTubeに代表される利用の権利としては非常に制約が厳しいが,無料で数多くの楽曲を聴けるという新しいサービスのあり方が,多くの人々に受け入れられたといえる。

第3表 情報メディアの種別ごとにみた利用の5類型の平均得点
所有準所有AC1AC2AC3
小説2.151.371.411.34
教養書と専門書1.901.281.331.34
漫画1.921.511.34
音楽1.991.781.453.13

B. 情報メディアの利用による回答者の類型化

1. 階層的クラスタリング

情報メディアの利用に関する30の設問に対する回答を前述の方法で算出した得点を用い,情報メディアの利用傾向に基づいて回答者を類型化することにより,類型ごとの特徴を明らかにすることを試みた。そのために,階層的クラスタリングをSPSS Statistics 25を用いて行った。回答者間の類似度はユークリッド平方距離によって算出し,クラスタ間の類似度の定義にはウォード法を用いた。

階層的クラスタリングによって得られた樹形図に基づいて,A~Gの7クラスタを同定した(第1図)。さらに,情報メディアの利用に関する設問ごとに各クラスタの平均得点を集計した(第4表)。また,これら30の設問を第2表で示した所有・アクセスによる5類型に加え,情報メディアの種別(小説,教養書と専門書,漫画,音楽),メディアを有料または無料で利用しているか,対象メディアを物理的かまたは電子的に利用しているかという観点から分類し(第4表),この分類ごとに各クラスタの平均得点を算出した(第5表)。次に,これらの図表をもとに,それぞれのクラスタの特徴を表すような名称を各クラスタに付与した。以下,各クラスタの特徴と名称を説明する。

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第1図 情報メディアに関する30項目の回答結果に基づく回答者のクラスタリング

第4表 各質問項目における7クラスタ別の回答の平均得点
番号情報種別質問項目物理的電子的な媒体無料・有料クラスタ全体
A YouTubeB非利用C図書館D音楽E所有F全メディアG積極(アクセス3)
1小説購入(紙)物理有料1.261.952.131.932.523.732.822.15
2購入(電子書籍)電子有料1.091.281.131.421.303.652.241.41
3図書館で借りる物理無料1.091.413.841.331.643.382.661.85
4図書館で借りる電子無料1.011.051.061.111.043.381.511.16
5家族や友人から借りる物理無料1.081.201.511.281.803.732.321.58
6有料読み放題サービスで読む電子有料1.001.021.011.071.093.581.791.19
7投稿サイトで読む電子無料1.051.031.101.111.463.652.231.37
8教養書購入(紙)物理有料1.181.701.741.492.143.622.761.90
9購入(電子書籍)電子有料1.031.181.081.161.263.422.091.33
10図書館で借りる物理無料1.041.202.471.191.543.152.401.58
11図書館で借りる電子無料1.011.021.241.051.073.621.751.20
12家族や友人から借りる物理無料1.031.031.321.191.553.502.081.40
13有料読み放題サービスで読む電子有料1.001.021.041.051.073.381.881.19
14無料サービスで読む電子無料1.011.061.151.091.203.502.101.28
15漫画購入(紙)物理有料1.341.491.471.812.403.542.681.92
16購入(電子書籍)電子有料1.121.231.211.461.593.152.451.51
17図書館で借りる物理無料1.011.051.221.051.143.421.791.23
18レンタルストアで借りる物理有料1.061.031.101.071.383.811.951.32
19レンタルサイトで借りる電子有料1.011.021.051.041.133.881.751.21
20家族や友人から借りる物理無料1.071.091.271.351.803.502.501.54
21漫画喫茶で読む物理有料1.141.161.131.251.663.462.131.47
22有料読み放題サービスで読む電子有料1.011.021.001.041.203.622.191.27
23音楽購入(CD)物理有料1.641.711.681.952.173.422.641.99
24レンタルストアで借りる物理有料1.661.291.421.631.833.622.441.73
25図書館で借りる物理無料1.081.051.461.051.133.271.861.27
26家族や友人から借りる物理無料1.161.071.331.301.623.312.311.48
27ダウンロード購入する(音楽ファイル)電子有料1.741.211.312.231.723.772.981.78
28図書館のサイトで聴く電子無料1.021.031.101.071.083.811.681.20
29有料聴き放題サービスで聴く電子有料1.131.051.124.301.163.732.981.57
30YouTubeなどの無料の動画サイトで聴く電子無料3.751.632.923.813.603.694.053.13
全体1.231.211.451.501.583.542.301.54
第5表 情報メディアの種別,所有とアクセスの利用類型,有料と無料,物理的と電子的からみた7クラスタの平均得点
クラスタ情報メディアの種別所有・アクセス有料・無料物理的・電子的な利用人数(名)
小説教養書と専門書漫画音楽所有準所有AC1AC2AC3有料無料物理的な利用電子的な利用
A YouTube1.081.041.101.651.361.271.081.083.751.211.241.191.27176
B 非利用1.281.171.141.261.711.101.231.101.631.271.141.301.12259
C 図書館1.681.431.181.541.751.181.141.402.921.291.641.671.23103
D 音楽1.321.181.262.171.791.471.351.343.811.621.361.391.6057
E 所有1.551.401.541.792.311.461.381.363.601.601.551.751.40291
F 全メディア3.593.463.553.583.583.643.413.533.693.593.493.503.5926
G 積極(アクセス3)2.222.152.182.622.732.442.262.104.052.362.232.362.25118
全体1.531.411.431.771.991.481.421.393.131.561.521.631.451,030

第4表の各クラスタの全設問(全体)の平均得点をみると,クラスタA, B, C, D, Eは全体の平均得点が最大でも1.58であるのに対し,クラスタFは3.54,クラスタGは2.30であり,情報メディアの利用の少ないクラスタ群(A~E)と多いクラスタ群(F, G)に大別できる。利用の少ないクラスタ群(A~E)には,全1,030名のうち86.0%の回答者が属している。

クラスタAは,情報メディアの所有・アクセスの5類型からみると,YouTubeなどの無料動画サイトによる音楽の鑑賞であるアクセス3のみ3.75と高い得点を示した。それ以外の所有や準所有,アクセス1,アクセス2は1.08~1.36と低い得点であった(第5表)。クラスタAはYouTube等の無料動画サイトのみを頻繁に利用し,他の情報メディアはほとんど利用しないクラスタとして解釈し,「YouTubeのみ利用」(表中ではYouTube)と名付けた。

クラスタBは,情報メディアの所有・アクセスの類型に関わらず,いずれも得点が低かった。特にアクセス3のYouTubeなどの無料動画サイトによる音楽の鑑賞は,全回答者の平均得点が3.13であるのに対し,Bは1.63と突出して低い得点であった(第5表)。情報メディアの種別ごとにみても,全ての種別で平均得点が1.14~1.28と低い得点であった(第5表)。そのため,クラスタBを情報メディアを全般的に利用しないクラスタと解釈し,「非利用」と名付けた。

クラスタCは,クラスタA~Eの中では無料の情報メディアの利用が1.64と最も高く,また,物理的な情報メディアの利用に関する得点も1.67と2番目に高かった(第5表)。このことから,無料および物理的情報メディアの利用を比較的好む傾向があるといえる。さらに,図書館における物理的な情報メディアの入手に関する設問3, 10, 17, 25の平均得点が高いため,図書館を伝統的な形で利用するクラスタと解釈し,クラスタCを「図書館利用」と名付けた。

クラスタDは,音楽の利用が2.17,有料でのアクセスが1.62,電子的な情報メディアの利用が1.60と,クラスタA~Eの中では音楽を最もよく利用し,有料で電子的なアクセスを最も行う傾向にある。個別の質問項目をみたところ,設問29の音楽のサブスクリプションサービスの利用に関する平均得点が3.81と全クラスタの中で最も高い値を示していた(第4表)。そこで,クラスタDはサブスクリプションサービスを中心に音楽を利用する「音楽利用(定額)」のクラスタと解釈した。

クラスタEは,所有・アクセスの類型からみると,所有の平均得点が2.31とクラスタA~Eの中で最も高い。電子的な利用(1.40)に比べ,物理的な利用(1.75)の平均得点が高く,個別の設問で見ても紙の本や漫画,CDなどの物理的な形態の情報メディアの購入を行うことが示された(設問1, 8, 15, 23)。YouTubeなどの無料動画サイトによる音楽の鑑賞を除き,電子的な情報メディアの利用は少ないことから,クラスタEは物理的な媒体の購入を主に行う「所有」と同定した。なお,この「所有」クラスタは7クラスタの中で最も人数が多く(291人),情報メディアの利用に関する30項目全体の平均得点も「音楽利用(定額)」と並んで7クラスタ全体の平均得点に近い(第5表)。従って,最も平均的な情報メディアの利用をしているクラスタであると推測できる。

全体の平均得点が高いクラスタF, Gには,全体の14.0%の回答者が属している。クラスタFは情報メディアの利用に関する設問の全30項目の平均得点が,7クラスタ全体の平均1.54を大きく上回る3.54であった。全クラスタの中で最も情報メディアの利用を積極的に行うクラスタであると言える。情報メディアの種別,所有・アクセスの類型,有料・無料,物理的・電子的な利用のいずれの観点でも偏りなく他クラスタよりも高い得点を示しており,情報メディアの利用を全般的に行っていると考えられる。そのため,クラスタFは「全メディア積極利用」と名付けた。

クラスタGは,クラスタF「全メディア積極利用」に比べると情報メディアの利用は少ないものの,情報メディアの利用に関する設問全30項目の平均得点は2.30と全体の平均得点1.54を上回っている。種別や有料・無料,物理的・電子的な利用の観点でみた場合には,種別のうち音楽が本や漫画に比べて多い以外に類型ごとの大きな差はない。しかし所有・アクセスの類型では,アクセス3の平均得点が「全メディア積極利用」(3.69)よりも高い値である4.05を示している。この特徴から,クラスタGは「積極利用(アクセス3重視)」と名付けた。

2. 各クラスタの特徴

年齢,1カ月間で自由に使える金額,情報メディアの利用頻度,物理的な情報メディアへの志向の観点から各クラスタがどのような特徴を持つかを分析した。なお,機器の所有と利用については今回の調査ではクラスタごとの差が見られなかった。

a. 年齢

第2図に各クラスタの年齢層別の回答者の割合を示した。各クラスタの平均年齢は,「YouTubeのみ利用」が43.8歳,「非利用」が50.3歳,「図書館利用」が52.9歳,「音楽利用(定額)」が37.0歳,「所有」が42.8歳,「全メディア積極利用」が36.3歳,「積極利用(アクセス3重視)」が36.3歳である。情報メディアの利用の多い「全メディア積極利用」と「積極利用(アクセス3重視)」では20代と30代で7割前後を占めている。ただし「積極利用(アクセス3重視)」は20代が4割以上を占め,「全メディア積極利用」は30代がほぼ4割を占めるという違いがあった。情報メディアの利用の少ないクラスタ群の中でも,音楽のみ頻繁に利用する「音楽利用(定額)」も20代の占める割合が4割以上となっていた。対照的に,「非利用」と「図書館利用」は50代と60代が6割前後を占めている。情報メディアの利用に対して消極的な者と,電子的な情報メディアを利用せずに図書館で物理的な情報メディアを入手する者には高年齢層が多いといえる。

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第2図 各クラスタの年齢層別の回答者の割合

b. 情報メディアの利用頻度

本(小説,教養書や専門書),漫画,音楽の利用頻度に関する設問項目について,各回答のうち,「毎日」利用するを5点,「少なくとも週1回以上,ただし毎日ではない」を4点,「月1回以上,週1回未満」を3点,「月1回未満」を2点,「全くない」を1点として,平均得点を求めた。第3図にクラスタごとの情報メディアの利用頻度の平均得点を示した。

7クラスタ全体の平均得点が最も高いのは音楽(3.63)であり,次いで本(2.51),漫画(2.28)であった。音楽の利用頻度が高いクラスタは「音楽利用(定額)」,「積極利用(アクセス3重視)」,「YouTubeのみ利用」の順であり,いずれも音楽の利用が特徴的なクラスタである。7クラスタ全てにおいて本や漫画に比べて音楽の利用頻度が高いが,「全メディア積極利用」では本(3.65),漫画(3.58)と音楽(3.88)の利用頻度が同程度となっていた。

漫画は全体として利用頻度が低く,「全メディア積極利用」でのみ本,音楽と同程度であった。本の利用頻度も全体の平均得点が音楽に比べて低いが,「全メディア積極利用」,「積極利用(アクセス3重視)」,「図書館利用」では平均得点が3.00と高くなっていた。特に「図書館利用」クラスタは,本の利用頻度(3.31)が音楽(3.38)に並ぶ高さであり,他のクラスタと比べて特異な傾向を示していた。

以上のように,前述した各クラスタの特徴と情報メディアの利用頻度は一致している部分が多い。各クラスタの特徴が利用頻度によっても裏付けられているということができる。

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第3図 クラスタごとの情報メディアの利用頻度の平均得点

c. 物理的な情報メディアへの志向

CDや本のコレクション志向と,他者への本やCDの貸出や譲渡に関する設問において,「はい」が最も高い割合を示していたのは「全メディア積極利用」クラスタであり,次いで「積極利用(アクセス3重視)」クラスタであった(第6表)。

第6表 各クラスタにおける物理的な情報メディアへの志向に対する回答者の割合
クラスタ全体 (n=1,030)
YouTube (n=176)非利用 (n=259)図書館 (n=103)音楽 (n=57)所有 (n=291)全メディア (n=26)積極 (アクセス3) (n=118)
CDをコレクションする27.8%18.2%23.3%33.3%38.1%65.4%55.1%32.2%
本をコレクションする7.4%19.3%21.4%14.0%35.1%69.2%45.8%25.9%
新品でないと抵抗がある27.8%31.7%9.7%31.6%26.1%53.9%28.8%27.5%
他人に本やCDの貸出や譲渡を行う15.3%12.4%24.3%40.4%46.1%65.4%58.5%31.7%
本やCDの入手に満足感を覚える50.6%45.6%51.5%64.9%72.2%80.8%74.6%59.8%

本やCDの入手への満足感についても,他の設問と同様に情報メディアの利用が多い「全メディア積極利用」が最も高く,次いで「積極利用(アクセス3重視)」であった。ただし,情報メディアをあまり利用しないクラスタでも「非利用」を除くクラスタで5割以上が情報メディアの入手に満足感を覚えると回答した。特に物理的な情報メディアの利用を好む「所有」クラスタでは72.2%と高い割合を示していた。

新品を好むことについては,「全メディア積極利用」クラスタのみが53.9%と高い割合を示した。一方,「図書館利用」は9.7%と最も低い割合を示しており,図書館の利用が多い者は新品を好む者が特に少ないことがわかった。

d. ビッグファイブ性格特性

第7表は各クラスタのビッグファイブ性格特性の得点である。表中の値は14点満点で,数が大きいほどその傾向が強いことを示している。神経症傾向については,得点が高いほど,感情的反応の予測や制御が不安定になりやすいことを意味している。

全体として,どの特性でも平均得点が7~9点程度の値を示し,著しい差は見られなかった。ただし,情報メディアの利用に最も積極的な「全メディア積極利用」は,他のクラスタに比べ,協調性(7.73)と神経症傾向(7.69)が低く,開放性(8.19)が高い傾向にあった。次いで情報メディアの利用に積極的なクラスタの「積極的利用(アクセス3重視)」は,外向性(7.53)と開放性(8.22)がやや高かった。

開放性が高いということは,知的な好奇心が旺盛で,文化的な新しい経験に積極的である性格とされている。情報メディアの利用に積極的な2つのクラスタにおいて,開放性が高いという共通項を見いだすことができた。

第7表 各クラスタにおけるビッグファイブ性格特性
クラスタ全体
YouTube非利用図書館音楽所有全メディア積極 (アクセス3)
外向性7.307.157.177.656.977.657.537.21
協調性9.499.409.789.819.467.739.199.43
勤勉性7.468.188.017.357.498.047.537.72
神経症傾向8.697.998.178.028.727.698.508.38
開放性7.417.587.127.707.488.198.227.57
e. 一か月間で自由に使える金額

第4図に各クラスタの一か月間に自由に使える金額に関する回答の割合を示した。一か月間に自由に使える金額が3万円以上の回答者が最も多いのは「全メディア積極利用」の76.9%,次いで「積極利用(アクセス3重視)」の40.7%であった。どの情報メディアの利用も多い「全メディア積極利用」クラスタでは,他のクラスタに比べて,金額が一際多く,情報メディアの利用に費やせる金額も多い可能性がある。しかし,「全メディア積極利用」以外のクラスタにおいては金額に大きな差は見られず,自由に使える金額が情報メディアの利用の特徴に影響するとはいえない。

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第4図 各クラスタの一か月間に自由に使える金額による回答者の割合

IV. 結論

A. 情報メディア利用の7類型

本や音楽の利用に関する既存調査によって指摘されている通り,本研究においても日本人の情報メディアの利用自体が非常に少ないことが示された。ただし,人々の情報メディアの利用傾向は一様ではなく,7クラスタに類型化することができた。情報メディアの利用に対して積極的な人々は,あらゆる情報メディアの利用に対して積極的な「全メディア積極利用」と,特にアクセス3での利用を重視している「積極利用(アクセス3重視)」の2類型であった。情報メディアの利用が少ない大多数の人々も,以下の5つに類型化することができた。すなわち,全ての情報メディアの利用に対して消極的な「非利用」,無料の動画サイトのみ利用する「YouTubeのみ利用」,図書館を通して本の積極的な利用を行う「図書館利用」,サブスクリプションサービスを中心に音楽を利用する「音楽利用(定額)」,物理的な媒体を所有する形で利用する「所有」である。どの情報メディアをどのような形で利用するかという特徴から類型化されたといえる。

この7クラスタに関して年齢,情報メディアの利用頻度,物理的な情報メディアへの志向,性格特性,1ヶ月間に自由に使える金額という点から特徴をみた。情報メディアの利用が全体に多い「全メディア積極利用」は,平均年齢は低く30代が占める割合が高かった。このクラスタは情報メディアの利用頻度が高く,本およびCDコレクションをする人が多く,性格的には知的,文化的好奇心が強く,1ヶ月に自由になる金額も3万円以上の人が占める割合が多かった。

年齢という観点からは,音楽の利用が多いクラスタで平均年齢が低くなっており,利用が全体として少ないクラスタでは平均年齢が高いという特徴が見られた。またこれら7クラスタは基本的には情報メディアの利用動向に基づいてクラスタの特徴を同定したため,情報メディアの利用頻度はそれを反映していた。しかし,性格特性と1ヶ月間に自由に使える金額に関しては,すべてのクラスタを区分するような特徴は見られなかった。物理的な情報メディアへの志向についても,個別のクラスタと個別の設問との間に関係が見られたものはあったが,全体としての特徴づけはできなかった。

B. 情報メディアの種別ごとにみた所有とアクセス

今回,所有とアクセスの関係を,伝統的な所有において利用者が保有できる権利がどこまで制約されているかという観点の5類型の枠組みで考えた。この5類型で見ると,小説,専門書と教養書,漫画においては所有が,音楽においてはアクセス3の利用が最も多いという結果になった。

小説,教養書と専門書は,印刷版を購入する所有が現在でも中心であり,電子書籍の購入であるアクセス1も,図書館からの借出や電子的なサブスクリプションサービスの利用であるアクセス2も全体としては利用されていなかった。利用の7クラスタのうち「図書館利用」クラスタでのみ,所有ではなくアクセス2が利用の中心となっていた。ただし,この場合のアクセス2は,伝統的な図書館から借りるというアクセスのみが高く,新しい形でのアクセスの利用が見られたわけではなかった。

漫画においても,紙の漫画の購入である所有が最も利用されているが,小説,教養書と専門書に比べると,電子的な形での利用は進んでいる。紙の漫画の購入は紙の小説の購入よりも平均得点は低いが,電子書籍の漫画の購入(準所有)は電子書籍の小説の購入よりは高くなっている。利用動向の7クラスタには,漫画をよく利用するという特徴をもつクラスタは識別されなかった。

一方,音楽は本と異なり,アクセス3の類型での利用が所有よりも高かった。アクセス3である無料動画サイトによる音楽の視聴は,7割以上の回答者が利用していた。これは,日本レコード協会の調査によって示された無料動画サイトによる音楽聴取の普及の傾向と一致する。アクセスの中でも利用者の有する権利の制限が強く,コンテンツの継続的な利用が保障されていない,不安定な類型である無料動画サイトの利用が他の情報メディアに比べて普及していることになる。

情報メディアによって,所有とアクセスの利用のされ方は異なるが,情報メディアごとに提供されているサービスのあり方が異なっており,情報メディアの利用実態の変化は現状では,物の所有からアクセスへという単純なものではなかった。

本研究では,人々の好みや意識ではなく,実際の行動を質問紙に基づいて調査し,情報メディアの利用動向に基づいて類型化し,各グループの特徴を明らかにした。所有とアクセスに関する研究では,心理的所有感という所有に関する意識上の変化に関心が集中しているが,認識と実際の行動は異なるもので,利用行動という側面からの知見を提供できたことには意義がある。本研究は日本人の行動のみを調査,分析した結果であるため,この傾向が日本独自のものであるかは明らかでない。今後はこの傾向が一般化可能なものであるかを明らかにするために,海外を対象として同様の調査を行う予定である。それによって,日本人と海外の人々の情報メディアの利用の差異を明らかにしたい。

謝辞Acknowledgments

本研究はJSPS科研費19H04423の助成を受けて行いました。また,研究を進めるにあたり,慶應義塾大学名誉教授の上田修一氏に丁寧なご指導を賜りました。心より感謝いたします。

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