Library and Information Science

Library and Information Science ISSN: 2435-8495
三田図書館・情報学会 Mita Society for Library and Information Science
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Library Science 3: 107-119 (1965)
doi:10.46895/ls.3.107

原著論文Original Article

日本の農学系図書館Agricultural science libraries in Japan

発行日:1965年7月1日Published: July 1, 1965
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日本で農業図書が出版されたのは古いことであるが,農学図書館はごく最近の発達に属する。明治初年に札幌農学校と駒場農学校が設立された当時,勧農局の規定中,農学校の諸掛のうちに図書を取扱う掛が定められたが,これが大学の農学図書館員の嚆矢と言えよう。また同じころ,山林局の文書課に図書掛があったし,農商務省が発足したときには,庶務局記録課で図書その他の記録文書を保管したばかりでなく,翻訳,編集,刊行の事務を行なっていた。これらは現在の農林省図書館や林野庁の林業資料館の始まりと見做すこともできよう。本稿は現在諸大学,農林省,その他の国公私立農学系研究機関のもつ主な図書館・室を概観し,今後の発展の見透しを述べたものである。

現在36農学部とその他の農学系学部を合わせると,国公私立の大学に53の農学系学部があるが,その多くは研究室や各講座に図書その他の資料が分散し,学部図書館・室と呼ばれるものがあっても,そこは余り利用されない図書を納めた倉庫のような場合が多い。このようなときに,新しく建設された東京大学農学部図書館が,建築上欠点はあるけれども,教授達と館員の協力と努力によって,サービスをする図書館として生まれかわりつつあることは,農学分野の大学の図書館としては画期的なできごとで,今後の発展が期待される。

農商務省時代に記録課が取扱っていた図書館的業務は,後に文書課に移され,図書掛は図書の保管を専一に扱うようになった。更に現在の農林省調査統計局図書課となるまでには,若干の変遷を経たわけであるが,初期に担当していた翻訳とか,報告書編集というような,現在ドキュメンタリストの仕事の一部と考えられる業務は,だんだんに除外されていった。現在農林省図書館は同時に国立国会図書館の支部図書館でもあり,農政関係の資料を最も多く収集した中央図書館的性格のものであるが,林野庁の林業資料館と水産庁の水産資料館は,農林省図書館とは別の機構である。

国公私立の農学系試験研究機関は,農林省所轄29場・所をはじめとしてその他の国立機関があり,都道府県に属するものとして312場・所があり,私立の研究機関は小さな会社の研究室まで数えれば相当数にのぼる。このうち主要なものは農林省所属の試験研究機関であって,多くは資料情報サービスが充分に行なわれているとは言いがたいが,図書館,資料室を整備し職員の研修を重ねて積極的なサービスを行なおうとする動きが最近ようやく活発になってきた。ことに,このような動きを見て調整の役割を果しつつある農林水産技術会議の今後の動向は注目すべきものがある。

大学の農学系学部に比べて,国公立の農学系試験研究機関では,研究費を2倍以上も費しているのに,1人当り図書費は5分の1に過ぎない。国立の試験研究機関の1人当り研究費は,国立大学の農学系学部と比べて多いくらいであるのに,1人当りの図書費は5分の2ほどである。このような点からみてもまた農林水産技術会議事務局の行なった調査等によっても,国公立の農学系試験研究機関の研究者が図書その他の資料を通じて農学情報を入手する場合,はなはだしい困難に当面していることがわかる。

将来,農林センターが設立される場合,試験研究機関の研究者等に対し,この分野の資料情報サービスを提供するセンターは不可欠のものである。このような情報センターが発達すれば,単に農林省所属の試験研究者のみならず,国公私立大学の農学系教員や研究者も,都道府県立の試験研究場・所の研究者も,会社等の私立の機関の研究員も,稗益するところ多大であろう。

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